平成26年10月15日記載
(留意)
これから私が述べることは、原告の方々の考えを代表するものではなく、あくまで個人的な見解です。
原告の方々には、原告の方々それどれのご意見ご見解があります。
しかし、平成27年度の合格基準に「異議」があることは全員の共通事項です。


(1) はじめに
大阪地裁(AIJさん)の「求釈明申立書」への回答が厚労省よりありました。

【大阪地裁での求釈明申立書】
「合格率2.58%に思い留まった内心を明らかにされたい。
もし,政策的な意図があるとするなら,その理由を説明されたい。」

【厚労省回答】
『合格基準点は、当該年度の受験生の試験結果を踏まえ、「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために、試験の水準を一定に保つという観点から決定されるものであり、合格基準点の設定によって結果的に合格率が変動することはあっても、合格率を一定に保つといった観点合格者数を絞り込むといった観点から合格基準点を決定するものでない。
したがって、そもそも、厚労大臣(委員会)が、意図的に合格率を約2.6%にした事実はないから、回答の要を認めない。』

今、この回答を読まれた方々はどこに問題があるの?」と疑問を持たれると思います。「至極もっとも」な正論であるし、私もそう思います。しかし、そう思うには、の回答内容が「真実」であることが前提となります。

もし、平成27年度の合格基準が、このような考え方のもと適切に決定されていたのなら何ら異議を唱えることはしなかったでしょう。これらの内容がすべて真実であり、その真実に基づいて裁判官が判断を下すのであれば未だしもでありますが、その「嘘」を吟味することなく、頭からすべて「真実」として、裁判官が判断するとなれば憤りしかありません。

A地裁での判決は、厚労省の主張がすべて「真実」であるとの事実認定で、判決が下っています。はじめから厚労省の主張をすべて「真実」として事実認定し、それを前提として原告主張の是非を判断しています。前記事で「中東の笛」と記載したのはこのようなことからでした。

ここでは求釈明申立書での回答から、厚労省の「大きな嘘」を明らかにしていきます。これ以外にも「第3者の関与、持ち回り決議」などの疑義が散見されますが、裁判が進行中ですのでここでの指摘は控えさせていただきます。後日、AIJさんのブログで公開されるかと思います。
以下順次、開示された証拠をもって、その「大きな嘘」を証明していきます。



(2) 厚労省のこの回答での「大きな嘘」とは

「試験水準の維持とは合格率を一定に保つといった観点ではない」
意図的に合格率を2.6%にした事実はない」

しかし、

客観的なデータは、
「平成26年度までは、例年の合格率を考慮し合格基準を決めていた(試験水準維持)」
「平成27年度は、意図的か怠慢の結果(他事考慮)が合格率2.6%である」

と示しています。


それを証明するために、
まず、合格基準の合否判定に用いられた資料と考え方を示します。

科目補正(選択)で判断材料に用いられた資料は、
この「科目得点状況表(選択式)」しかありません。これは厚労省が裁判前からも一貫して主張していることです。
イメージ 1

年度毎の補正の考え方は、
「上記基準点については、各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験の水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。」と記載されており、厚労省事務局への問い合わせでの回答では、更に「機械的に合格基準を算出している」との文言が加わっています。

総合的に勘案して補正を行うとは、
裁判でも厚労省はこの科目得点状況表の「平均点・得点分布」しか判断材料にしていないと繰り返しているのですから、「総合的に勘案して補正する」の中には、年度毎の他の判断要素(政策、問題内容など)は一切存在しないことになります。(ここが一番重要な論点です。)

ならば、

科目得点状況表の評価方法(機械的)が常に同じであることを前提にすると、その結果である過年度の補正結果は整合性がとれていなければなりません。

もちろん、機械的とは、一定(同一)の「計算式」に則って導き出されると解されることは言うまでもありません。

しかし、客観的なデータからみて、
平成27年度の合格基準は、「過年度との整合性」がありません。厚労省の主張を再検証した結果(下記の表)、平成26年度までは一応整合性がありました。

次に、平成20年度から平成27年度の合否委員会の判断過程を示します。
厚労省主張の合否判定委員会での「持ち回り決議」の手順は次のようになります。

持ち回り決議の判断過程(原案→修正案→決定)
本件準則1(補正原則)の考え方で補正されたものが「原案」となります。
補正原則は、「合格基準の考え方について」を参照して下さい。
本件準則2(追加補正原則)の考え方で追加補正されたものが「修正案」となります。
*追加補正原則には、「(原案合格率)・平均点・得点分布・難化傾向・不合格者の割合・他年度比較)の6要件が存在しています。

(注意) なお、「準則(1と2)」の定義は厚労省主張のものではありません。
甲28 原案・修正案検証表


この対比表からもわかるように、
過年度、修正案で決定された年度(平成20年・平成22年・平成23年・平成25年)では、「追加補正」の要件を満たしていた科目はすべて補正されています。

しかし、
過年度、原案で決定された年度(平成21年・平成24年・平成26年)にも、「追加補正」の要件を満たしていた科目も常に存在していましたが、これらの年度に限って追加補正はされていません。(重要点)

厚労省の主張通り、平成12年度から「共通の機械的な評価方法」を用いて補正を行っていたのなら、平成21年・平成24年・平成26年も本件準則2(追加補正原則)が適用され要件を満たした科目はすべて追加補正が行われていなければならないはずですが補正は行われていません。
とするなら、得点分布や平均点以外の
「もう一つの要件」が判断要素として存在していなければ整合性が取れません。計算式がなりたちません。

それでは、
「追加補正適用の有・無」を決定する要件とは何なんでしょうか?

それは、過年度の「合格基準について」の記載内容にありました。

①合格率はともに7.6%となり,例年ベースを維持していること
②過去10年10%を超えたことがない(最高9.8%(H5)~最低6.8%(H6))

また、原案・修正案の比較表の検証結果の中に見出せます。

原案の段階での合格率が「7%未満」であった場合は、「本件準則2(追加補正原則)」を基に追加補正を行い、合格率を例年通りの範囲(概ね 7%~9%)まであげる調整(試験水準の維持)を行っていたことが明らかに見て取れます。客観的なデータは委員会が合格率を考慮していたことを明確に指し示しています。
平成25年度の合格率の着地点(5.4%)は1点補正候補が3科目あったため少し例外です。

上限の合格率については、
平成27年度などの「合格基準の考え方について」の中に、「科目の最低点引下げを2科目以上行ったことにより,例年の合格率と比べて合格率が高くなるとき(概ね10パーセントを目安)は試験の水準維持を考慮して,合格基準点を1点足しあげる」と記載されています。

このように、明確に、
合格率を指標(上限10%)として合格基準点を調整し試験の水準維持をすると記載しておきながら、

「合格基準点の設定によって結果的に合格率が変動することはあっても、合格率を一定に保つといった観点合格者数を絞り込むといった観点から合格基準点を決定するものでない。」 

などと主張することこそが、被告の自己矛盾を証明するものとなります。

これだけでなく、
もう一つ合否判定で「合格率や合格者数」を考慮していた事実が存在します。

合格率を考慮していた、もう一つの事実とは
それは、「持ち回り決議」で行われていた判断過程で、繰り返し出されたとされる修正案に添付される資料の中で、唯一更新されるデータは「合格率・合格者数・免除者の割合」しかないことです。(重要な論点)
厚労省の主張通り、合否判定において「合格率や合格者数」の考慮が必要でないなら、わざわざ連合会のデータセンターに指示し合格率や合格者数を何度も出し直しさせる必要がないのであり、委員会で合格基準が最終決定されてから、連合会にデータの更新を依頼すればいいことなのは言うまでもありません。

平成27年度の合格率2.6%になったこと、
労災・国年に追加補正の適用がなかったことについて

これらについて厚労省は次のように主張しています。
① 「厚労大臣(委員会)が、意図的に合格率を約2.6%にした事実はない。」
② 「労災・国年は本件準則1(補正原則)に適合しなかったから(要約)」
  厚労省は、平成27年度の合格基準は、「本件準則1(補正原則)」に基づく科目補正を行った結果であるとだけ強調し、平成12年度から平成27年度まで、同じ「本件準則1(補正原則)」のみで、合否が決定されていたかのような印象を与えようとしています。裁判官には、「本件準則1(補正原則)」だけを前提条件として、平成27年度の補正が適合しているかのどうかの判断をさせようとしています。(A裁判所では、厚労省の目論見通りになりました。)

しかし、「原案・修正案の対比表」や「合格基準の判断過程」で示してきたように、
実際は、「本件準則1(補正原則)」と「本件準則2(追加補正原則)」を用いて、過年度から合否判定を行っていたことは明らかです。
なお、本件準則(1・2)の定義分けはこちらでしたものです。

開示された資料と厚労省の主張を精査した結論として、

平成26年度までは、
① 得点分布の要件 =「本件準則 1(補正原則)」
② 原案合格率の要件 =「連合会算出データ」
③ 得点分布の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
④ 平均点の要件   =「本件準則2(追加補正原則)」
⑤ 難易傾向の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
⑥ 不合格者の割合の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
以上の要件を「総合的に勘案」して合格基準を決定していた。(修正案で決定)

平成27年度は、
①得点分布の要件 =「本件準則 1(補正原則)」
の要件のみで合格基準が決定されていた。(原案で決定)

このように、
平成27年度の労災と国年は、「②③④⑤⑥」の要件に完全に適合していたのにもかかわらず、平成27年度は過年度のように「追加補正」が適用されていないことは明らかですが、厚労省が本件準則2(追加補正)についての検討をした結果かどうかの回答も拒否しているため真相は不明のままです。

しかし、すべての証拠(書面・主張)を総合的に鑑みれば、

平成27年度の合格基準(合格率2.6%、労災・国年補正なし)は、委員会や第3者の意図的(他事考慮)な判断であったか、委員会の怠慢(考慮不尽)の結果であったかの、どちらかであることは間違いのない事実です。


最後に、(私見)
厚労省は裁判の前提条件となる事実について、「試験水準の維持とは合格率を一定に保つといった観点ではない、意図的に合格率を2.6%にした事実はない」などと嘘はつかずに、

「過年度は試験水準の維持のため、合格率を一定に保っていた。しかし、平成27年度は「●●●」の理由のため、労災と国年を補正せずに合格率2.6%で決定した」と、正々堂々と事実を主張すべきであると考えます。

厚労省が、それらの理由が、実施機関の裁量権の範囲であると確信しているならそうすべきです。それが実施機関の責務であると考えます。
そして、それらの理由が「裁量権の逸脱・濫用」であるのか否かを司法の判断に任せればいいだけのことです。

何故そこまで嘘をつく必要があるのか、何を隠そうとしているのか・・・?

今回の裁判で明らかになることを望みます。

以上



令和3年10月29日 追加資料

今回の合格基準も前代未聞となりました。(すべてが、追加=例外補正のみ)
R03-H27対比