② 平成27年 社労士試験 不合格取消等請求事件(労災・国年) TKTK

平成27年社労士試験の合格率2.6%において、 選択式(労災・国年)の補正適用有無について、過去との整合性がないこと等から、「不合格取消訴訟」に至るまでの経緯及びその裁判記録(全国4件)を公開

② 平成27年 社労士試験 不合格取消等請求事件 (労災・国年)
● 目次
● 序章
● 雑感(思い向くまま)
● 訴訟を終えて(原告の方々)
● 大阪地裁・高裁(AIJさん)
● A地裁(Tetさん)
● B地裁・高裁(L_Rさん)
● C地裁(Ultさん)

【3部構成】 
◆社労士試験の合格基準について(開示請求から訴訟まで)の全記録◆

① 社労士試験合格基準 開示データ(平成19年~令和〇年) と情報公開審査会答申

③ (旧保管) 社労士試験 合格基準の疑惑検証 (YAHOOブログから移行) 




はじめに (TKTK)再掲


令和元年12月に「YAHOO!ブログ」が停止となりますので、社労士試験合格基準(考え方・得点分布)公開までの活動記録として「過去の記事」や「厚労省開示データ」を整理し、この「livedoorブログ」で公開させていただくことにしました。

なお、厚労
開示データ等の更新は任意に行う場合がありますが、新たな記事は「完」となります。


(1)【 平成24年11月9日 】
始まりは、第44回(平成24年)
社労士試験選択科目(社一・厚年)の補正疑惑でした。

全ての資格学校が「社一2点」を予測(確信)しているなか、またも不可解な合格基準が発表されました。当時の殺伐・混沌とした状況は、「きよまる」さんブログの「コメント欄=394コメント」を見て頂ければと思います。
http://auau1211.blog75.fc2.com/blog-entry-663.html

***
平成24年11月12日の初回TKTKブログ記事より
厚年が補正され、社一が補正されなかった理由(可能性)
① 全体の復元データで、難易度が一番高かった
⇒「検証データ2」の「科目別:高得点者と全体の2点以下の割合差10%」からみて逆転の可能性は否定できない。しかし、厚年が4択であってもこの逆転現象が起こったのか?少々疑問である。
また2番手の社一が補正されなかったのは、「難易度の補正適用外の平均点・得点分布だった」であれば納得できるが、そうでないなら本年は意図的に社一を補正から外したと考えられる。事前・事後説明のない意図的な理由で外したのであれば受験生は納得できない。
② 従来からある噂の公務員・免除者優遇説
⇒公務員合格者 124人のために、多くの受験生を敵にまわすことが平気で出来るのか?  受験生の気持ちを考えるとこの説はあってはならないと思う。
③ 科目や問題内容で補正の優先順位がある。
⇒ もしあるとすれば、是非はともかく正式にその理由を公表すべきと考える。
★結論は、厚生労働省の「情報開示」を待ちたいと思います★
開示によって、難易度の高い科目が「適正」に補正されたと証明されれば、
受験生は「憶測」に惑わされることなく勉強に専念できると考えます。

***



(2)【 平成27年3月6日 】
情報公開審査会: 答申日平成27年3月6日(合格基準の考え方を開示すべき) 
全文書は、http://tktk0009.blog.jp/archives/3711446.html
厚労省の主張(要点): 
「合格基準の考え方が明らかになると、受験者側の操作による合格基準の引下げが可能になる。」
審査会の答申(要点):
厚労省の主張に対しての私の意見書(反論)が全面的に認められました。
「諮問庁は、社会保険労務士試験における意図的な得点操作が、インターネット等の呼び掛けによって、相当程度多数の受験者の自発的意思でなされるおそれがある旨の説明をしている。しかしながら、  相当程度多数の他の受験者にとって、特定の受験者が試験に合格する可能性を少しでも高めるために、何の対価も報酬もないまま、自身の不合格 は必然となるにもかかわらず、合格基準の引下げに協力するということは、社会通念上、およそ考えられず、このようなおそれが、単なる危惧感を超え、法的保護に値する蓋然性の域に達しているとは認められない。
したがって,本件不開示部分を開示したとしても,合格基準の引下げを目的として多数の受験者の共謀による得点操作を惹起するおそれがあるとは認められないことから,当該部分は法5条6号イに該当せず,開示すべきである。」 (答申 原表)


(3)【 平成27年11月6日 】
社労士試験の歴史上、「衝撃」の合格発表がありました。
① 過去に例のない、合格率2.6%
② 確実視された選択式「労災・国年」の補正なし
平成27年度(2.6%)の合格基準(労災・国年)の疑義については、当初、多くの受験生による「不合格取消の集団訴訟」が検討されましたが、代理人(弁護士)を立てての訴訟が経費的にみても負担が大きく(国との訴訟は最高裁までいくと予想され)、賛同者の代表として4名の方々が、各地域で弁護士を立てない本人訴訟を決断されました。(AIJさん・Tetさん・L_Rさん・Ultさん)

口頭弁論では原告側(本人)1名に対して、被告側(厚労省)代理人5名~7名を相手に怯むことなく果敢に挑まれました。この時の裁判記録(地裁・高裁)を初めて全文公開いたします。


(4)【 平成28年11月11日 】

平成28年度からの厚労省による合格基準(考え方・得点分布)の一般公開
平成27年の情報公開審査会での答申(開示すべき) 及び 裁判過程で正式に過去からの合格基準が公表されたことによって成されたものであると推認(確信)されます。

平成27年11月6日、
社労士試験の歴史上「衝撃」の合格発表から事件は始まりました。


目次
序章



 重要な判示抜粋)

訴訟を終えて

訴訟を終えて・・・(原告の方々より)

裁判記録
(AIJさん)大阪地裁















(AIJさん)大阪高裁
 


*******
(L_Rさん) B 地裁
B 地裁(L_Rさん) ①訴状
B 地裁(L_Rさん) ①被告答弁書(厚労省)
B 地裁(L_Rさん) ②原告第1準備書面
B 地裁(L_Rさん) ②被告第1準備書面(厚労省)
B 地裁(L_Rさん) ③原告第2準備書面(1/2)
B 地裁(L_Rさん) ③原告第2準備書面(2/2)
B 地裁(L_Rさん) ③文書提出命令申立書
B 地裁(L_Rさん) 判決文

(L_Rさん) B  高裁




*******
(Ultさん) C 地裁









*******
(Tetさん) A 地裁
A 地裁(Tetさん) 判決文(概略)

*******

雑感(思い向くまま)
①七海さんへ 今年の合格基準も・・・
②社労士の「都市伝説」って
③私 「救済って言葉・・使いません!」ドクターK
④トイレの花子さん、やっぱりいた・・・のでしょうか?
⑤蜘蛛の糸(救済?)
⑥パンドラの箱(希望)

*******


【3部構成】
◆社労士試験の合格基準について (開示請求から訴訟までの全記録) ◆

社労士試験合格基準 開示データ (平成19年~令和〇年) と情報公開審査会答申

平成27年社労士試験 不合格取消等請求事件 (労災・国年) 

(旧保管) 社労士試験 合格基準の疑惑検証 (YAHOOブログから移行) 


2015年11月23日 第一回目 集計結果の報告
【合格基準に疑問を持つ方々の声】
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2015年11月26日 【連絡】
今回受験された有志の(AIJさん)がブログを立ち上げられたのでご紹介いたします。
ブログ 「合格率2,58%に異議のある皆様へ」
はじめまして、合格率に異議のある皆様へ
「追加合格」を目的として、対策を練るために皆様の屈託のない「コメント」を頂きたいと思っています。
なお、私(TKTK)からは、
その方は本業のホームページも持たれており、信頼できる方であるとだけお伝えしておきます。
本名・ご職業・プロバイダーのメールアドレス(個人が特定できる)も私にはご連絡いただいております。また、最終的には訴訟も検討されています。

(留意)
2015年12月5日に厚労省より開示データが届き、詳細に
分析したところ、本年合格基準の適用に「過去との整合性がない」ことが証明でき、『平成27年社労士試験 合格率「2.6%」の真実(最終稿)』として、私の見解をブログに公開しました。




(A) 総務省への行政相談
総務省へ
【2015年12月30日 インターネットによる行政相談受付】
先日、他の方の回答で、
「社会保険労務士試験の合格率等につきましては、技術的な問題であり、当省の行政相談では回答することができませんので、ご了承願います。」との回答を頂いているとのことでしたが、この点について再度ご見解を頂きたく存じます。

御省庁は前身の総務庁時代に「国の資格制度」について、実態調査を踏まえ業務改善の勧告を出されています。

●規制行政に関する調査結果に基づく勧告‐資格制度等‐(平成12年9月総務庁)
この調査は、これらの状況を踏まえ、資格制度及び事業認定制度の現状及び各制度の運営の実態を調査し、関係行政の改善に資するため実施したものである。
なお、「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月31日閣議決定)においては、行政改革推進本部規制改革委員会(旧規制緩和委員会)の「規制緩和についての第1次見解」(平成10年12月15日)及び「規制改革についての第2次見解」(平成11年12月14日)において示された資格制度についての見直しの基準・視点等に基づき、各省庁は、所管の資格制度について、自主的な見直しを行うこととされている。
1 国の資格制度
(2) 資格要件、資格審査方法等の見直し、適正化
したがって、関係省庁は、資格審査事務の適切な実施、公平性・透明性の確保及び受験者の負担軽減の観点から、次の措置を講じる必要がある。
10. 資格者に求められる知識・技能等に対する評価の内容・レベルを明確にし、その透明化を図り、客観性を確保するため、試験問題の事後公表及び合否基準の公表を推進すること。(・・厚生省・・労働省・・・)

この勧告に基づいて、社労士試験も合格基準が平成13年度より公開されることとなりました。しかし、その理由説明は「上記合格基準は、試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正したものである」とだけであり、勧告された「客観性の確保・レベルの明確化」とはほど遠いものでした。このことから毎年のように公務員優遇などの疑惑の声が上がっていました。

これについては、本年6月の情報公開審査会答申の提言を経てやっと「合格基準の考え方について」や「合格基準について」の補正理由が記載された文書が開示されました。これによって平成12年勧告による改善の結果がどのようなものであったかがすべて判明しました。

しかしながら、本年を含む8年間の開示資料を詳細に検証した結果、「科目最低点の補正」について、「整合性・公平性・継続性」に問題がある疑いが出てきました。特に本年は以前の合格基準との整合性が全くとれておらず、実施機関に裁量権があるとしても、今回はそれを大きく逸脱している合格基準となっていました。これは疑いのない事実であると開示資料から断言できます。

このような「特殊なケース」であるにも関わらず、総務省として「技術的な問題であり、当省の行政相談では回答することができません」と事実確認も行わず幕引きすることに多くの受験生は失望しています。(厚労省への訴訟を考えられている方々もいます。)

また、総務庁の平成12年の勧告に基づいて、関連各省がどのように改善したのかしなかったのかを追跡調査し、不備があれば再勧告する責務が総務省にはあると私は考えますが、
(A)この点について総務省のお考えを聞かせ下さい。(再調査、再勧告について)
(B)仮に、これが総務省の管轄でないとするなら国のどの機関へ訴えればいいのでしょうか?(厚労省は当時者ですので論外です。)

厚労省による回答は、上記の定型文を繰返すのみで、以前の合格基準と整合性が取れていないことについての質問には明確な回答がありません。

また、後述する「合否判定委員会の疑惑」についての問題は、『行政の総務省の行政相談は、国や特殊法人などが取り扱う行政に関して苦情・要望等を受け付け、ご相談者と関係行政機関との間に介在して、双方から事情を聞くなどして、関係行政機関の自主的な解決の促進を図る制度です。』に該当する問題であり、勧告にある「資格審査事務の適切な実施」に該当する事項であると考えます。

社労士試験で疑義が生じている事項について

(1) 社労士試験合否判定委員会の疑惑
ア)合否判定委員会とは
合否判定は、「社労士法」や「合否判定委員会要領」によって定められており、厚労省の職員が担っています。試験の採点結果を踏まえ、適正な合格基準を設定し、その基準に基づき合格者を決定する。となっています。

イ)合否判定委員会が適正に行われていない疑いがある
委員会で合否判定のために使用された資料(2枚の科目別得点分布表と総得点乖離状況)だけでは、合格基準を強引に決めることができたとしても、その場で合格者数や合格率などを把握することができないだけでなく、「合格基準の考え方」や「年度毎の合格基準について」に記載されている基準設定過程での個々の割合(%)を算出し、それに基づいて合格基準の調整を委員会で行うなど「超能力者の集団」でないかぎりできません。また、合否判定及びその調整については、データを保管管理する連合会の試験センターも「関与していない」と発言しています。
厚労省と試験センターの発言を真実とするなら、合否判定委員会ではなく、別の場所で別の誰かが合格基準を決めていたとの結論でなければ説明がつきません。
そうだとすれば、「社労士試験合否判定委員会要領」や「社労士法」から逸脱する可能性が疑われ、合否判定手続自体に瑕疵があると考えられます。また、厚生労働省公文書管理規定第9条「厚生労働省における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに厚生労働省の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証できるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、文書を作成しなければならない。」にも違反している可能性があります。これらの事項は、総務省の行政相談の範疇に該当すると考えます。

(2)合格基準の設定(科目別最低点)に整合性・公平性・継続性がありません。
ア)社労士試験の科目最低点の補正は、著しく専門的、技術的性質を有するものではないこと。(基礎的な算数知識で足りる)
平成24年の厚労省担当者の回答も、『合格基準は、各年度において合否判定委員会で原則的に選択式及び択一式試験それぞれにおける各科目合計総得点の平均点及び各科目の得点分布から機械的に合格基準を算出し決定している。』と述べており、ここではさらに「機械的」との文言まで追加され強調していました。
このように、社労士試験の合格基準が全体の得点結果だけをもって機械的な観点のみで決められているのであるなら、数値的にみて過去の合格基準と「整合性・公平性・継続性」がより強く求められるべきであると考えます。
しかしながら、平成27年度の「労災・国年」は、開示された8年間の資料の中で、科目最低点のいわゆる追加補正された年度(平成25年・平成23年・22年・20年・18年)の補正要件をすべて満たしているにも関わらず、補正されませんでした。その結果が本年の合格率2.6%でした。もちろん、「ルール変更」するなどの事前公示もありませんでした。
以上述べてきました内容を再度検証していただき、総務省様には関係行政機関の自主的な解決の促進を図っていただく「力」になっていただきたいと切に望みます。

なお、厚労省にも、同様の質問を投げていますが、未だ回答はありません!!


2016年1月28日
【総務省からの回答が届きました。】
『 〇〇様 こちらは、インターネットで行政相談を受け付けました総務省東京行政評価事務所です。〇〇様からの社会保険労務士試験に関するご相談につきまして、以下のとおり回答します。回答まで時間を要し、申し訳ありませんでした。
1 「規制行政に関する調査結果に基づく勧告-資格制度等-」の再調査 、再勧告につきましては、予定はございません。
2 「総務省の管轄でないとするなら国のどの機関へ訴えればいいのか」  とのお問い合わせにつきましては、社会保険労務士試験は厚生労働省が所管しておりますので、厚生労働省以外にはないと考えます。
総務省の行政相談では、これ以上の対応は致しかねますので、ご了承願います。総務省東京行政評価事務所行政相談課 』

先日行政相談窓口へ確認したところ、「本省へ確認しています」とのことでしたので、これが国としての回答だと思われます。その厚労省は、木で鼻を括ったような態度に終始しています。
仮に、裁判所でも「最高裁の判例」に基づき、裁判に馴染まない事項であるとされたなら、国家試験の実施機関は、合格基準に関すること全てについて、好き勝手にしていい、何ら受験生に説明義務を果たす必要もないとのお墨付きを得たことになります。
本当に、これでいいのでしょうか?



(B)厚労省への問い合わせ
2016年1月9日
【厚労省担当者からの回答】
● l_r**さんからのご報告
先日、改めて厚生労働省のご担当者に問い合わせを行いました。
今回、私の問い合わせの趣旨は、多くの方々からの問い合わせや意見書を受けて、何らかの対策を講じているか否かを確認するという点でした。
前提と致しまして、問い合わせは継続的にあることが、再度ご担当者から確認できました。
皆様の問い合わせや意見書がどのように反映されているのか、こちらのコメント欄にて、皆様にご報告致します。

質問1
「色んな方から問い合わせや意見書が届いていると思いますが、それについて施策を講じることを省内で検討していないというお話だったと思いますが?」(私が以前問い合わせした際の話の確認的な意味で)
返答
「具体的にお答えする内容がないということ」

質問2
「その後、多くの方の問い合わせや意見書を受けて、その後の進捗、何か状況が変わりましたか?それ以降も問い合わせを受けて何か行動を起こすとかそういう予定はないのですか?」
返答
「問い合わせ自体はあるかないかと言ったら継続的に受けている」

質問3
「それで、その問い合わせに対して、厚生労働省の見解を発表する等の対策を講じる予定はありますか?」
返答
「今、発表するものがない」

質問4
「問い合わせに対して、言葉は悪いですが無視をするのですか?」
返答
何とも申し上げられない。検討しているいないとか、その内容を述べるわけにはいかない。合格発表以降色々な意見がある以上は、それを踏まえて来年に向けて何を検討課題にするのかということは考えている」

質問5
「来年に向けてですか?今年度の合格基準については論理的に厚生労働省として整合性の取れている理由とか発表する予定はないということですね?」
返答
「今予定はありますか?とマスコミはおっしゃいますけども、それに対しては今ありますとは応えていない

質問6
マスコミの方からも問い合わせがあるということですよね?」
返答
それは...まあ...ありますね

質問7
「今年度の合格基準について、厚生労働省として問題ないとお考えなのですね?」
返答
これまでにお伝えしてきた通りなんですけども」

質問8
「そうすると、このまま無視するという形になるのですね?」
返答
「外からどのように受け止めるかという話であって、我々は答えられない

質問9
「こういったお話はご担当者以外の方々、上司の方などにはお話はいっているのですか?」
返答
「いただいていることについては、情報を共有している

質問10
「こちらからの内容は上の方に報告済みということですね?」
返答
「たくさんあるものですから、そういったものを類型化して、まとめて報告している」

以上が問い合わせ内容の一部となります。
非常に驚いたことにマスコミも動いているようですね!
以前、多くの方々が一生懸命、マスコミに情報提供していたのは無駄ではなかったということでしょうか。
そして、問い合わせ窓口から、問い合わせ内容を類型化、まとめて上に報告しているとのことでした。

問い合わせ全体としての私の印象としましては、このまま沈黙を続けて逃げ切る予定という感想を持ちました。

■択一雇用の試験問題に出題ミスがあり
■選択労一の問題は某受験予備校が運の要素が強いとして、国家試験として適切であったのかとして批判
■多くの矛盾をかかえ、合否判定委員会、試験センターの機能、文書管理や発言について虚偽の疑いあり
■過去の合格基準の考え方と整合性がとれない
■同省管轄の薬剤師国家試験の方向性に逆行
■不動産鑑定士は試験の改善に向けて方針を事前に行っているにも関わらず、社労士は事前手続、発表等は一切なし

上記に加え、行政庁としての説明責任を果たさず、試験後の対応も最悪という結果になりそうですね!
正直、ここまでずさんな試験だと呆れ果ててしまいます。

社労士試験の合格に要する時間は、例年の合格基準や合格率で800時間以上とも、1000時間以上とも言われています。仮に合格のために費やした時間を時給1000円で働いていたと仮定した場合、80万円は稼げたことになります。それに加え、予備校費用、教材費、交通費などを合わせたら、100万円にものぼるでしょう。
試験勉強のために、家族や恋人、友人と一緒に過ごす時間を削って、一生懸命努力した方も少なくないはずです。
また、病気や介護、育児、仕事との両立といった様々な苦しい環境のなかで、将来の夢や高い目標を掲げ、家族や大切な人、そして社会のために試験の合格を目指した方もいることでしょう。
ずさんな試験を実施した結果、多くの方々からの問い合わせが生じ、その問い合わせを来年以降の検討課題にしたいというだけで終わらせることは絶対に倫理的にも許されることではないと思う。


(C)マスコミ関連
大手新聞社会部(読〇)の担当記者さんからの問い合わせがあり、開示資料などを送付し内容を説明しましたが、事件性が無いと判断されたのか、新聞記事は見送りとなりました。
超有名週刊誌(文〇)の記者さんからも問い合わせがあり、同じく説明資料などを送付しましたが、最終的に「記事はデスクで没となった」との連絡がありました。


今回、合格基準に疑問を抱いた多くの受験生は、
最終、厚生労働大臣による「合格基準についての詳細な説明」を求めましたが、いつまでたっても回答がなく、ついに、2015年2月不合格の取消を求め4名による原告提訴に至りました。

「このような状況の元、ついに、賽は投げられました!」
AIJさん・Tetさん・L_Rさん・Ultさん

「裁判の全記録」は
平成27年社労士試験不合格取消等請求事件へ
http://tktk00099.blog.jp/archives/cat_65956.html



令和3年10月29日 追加資料
今回の合格基準も前代未聞となりました。(すべてが、追加=例外補正のみ)
R03-H27対比


H27



1.本年、
合格率2.6%の真実とは
本年2.6%の合格率は、開示された合格基準の考え方に記載されている「試験水準を一定に保つ」の考え方や過去の「補正ルール」から乖離しており、実施機関の「裁量権逸脱・濫用」であると断言します。

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時折「合格基準が年度毎に整合性がとれていなくて何が問題なの?些細なこと」との発言を耳にしますが、社労士は法律を扱う資格であるにもかかわらず、そのような曖昧でいい加減な考え方が出来る関係者の方が存在することが不思議でなりません。この1点には多くの受験生の人生がかかっています。業務として扱う法律には国民の生活や命がかかっています。


次に、このように断定した理由を8年間の開示資料(証拠)から明らかにします。
2.社労士試験の合格基準について
(1)合否判定の規定文書について
・合否判定委員会で使用される合否判定に関する規定は、「合格基準の考え方について」に記載されています。(これが上位文書にあたります。)
・年度毎に行われた合否判定結果の理由については、「合格基準について」に記載されています。

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この規定の中で過去から何度も問題となっているのは、選択式「科目最低点」についてであり、この補正の適用可否の理由が不透明であったことからでした。

ここから一般常識科目についての都市伝説(公務員優遇のため労一は補正されない、社一も社労士法が出れば補正されないなど)の噂が広がっていました。しかし、これについては開示された資料を検証する限り「事実」であると断定することは出来ませんでした。過去の補正には一抹の疑義は残っていますが「都市伝説」の多くは偶然の産物から生まれたものだった可能性が高いと結論付けました。

2)合格基準の設定方法について
上位文書である「社労士試験の合格基準の考え方」で、次のように規定されています。

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1 合格基準点 
これは平成12年度の合格基準点ですが、以後15年間一度もこの基準点がそのまま適用されたことはありませんでした。
2 年度毎の補正

平成13年以降は、全ての年度で、この規定によって補正された合格基準が適用されています。
この「年度毎の補正」の理由・目的・方法については、次のように定められています。
各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。』と規定されており、その考えに基づいて15年間合格基準点の補正が継続的に行われてきていました。


この規定の中で留意すべき点が二つあります。一つ目は、
「試験水準を一定に保つ」とは「合格率を一定に保つ」こと

この規定の中で述べられている「試験水準を一定に保つ」とは、「(1)総得点の補正」に記載されている下記の文言から、「合格率を一定に保つこと」あり、合格率の上限を「概ね10%」にすることであったことは明らかです。
もちろん、本年の「合格基準の考え方」にも同じく記載されています。(重要)

(1)総得点の補正
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また、合格率の下限については、平成19年と平成20年の「合格基準の考え方について」の総得点の補正に「*」で記載されている、例年の合格率(9.8%~6.8%)との文言からみて、この時点では7%前後を想定していたと考えられます。

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その後、平成23年度の「(2)科目最低点の補正」には、新たな規定が加わってきていました。
その規定に基づき、「労災・基安・国年」の3科目の最低点を2点に引き下げ、7.2%まで合格率を上げる調整行っています。この年度に追加補正を行う目安となった合格率は選択・択一度数表から計算して「4.2%」となります。
この規定は、本年と対比する上で特に重要な規定であるため、後頁にて詳細に検証いたします。平成23年度との対比で真実が浮かび上がります。

(2)科目最低点の補正
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平成25年の「社一」もこの規定及び平成20年・平成22年の年度毎の合格基準についてに記載された補正理由に基づき、社一の最低点を1点に引き下げ、5.4%まで合格率上げる調整を行っていました。しかし平成27年は・・・(詳細は後述)

平成25年は1点補正が1科目しかなかったことが、平成23年度の規定から逸脱している可能性がありますが、その問題についての検証は後頁で述べます。

二つ目は、
社労士試験の科目最低点の補正は、著しく専門的、技術的性質を有するものではないこと。   (基礎的な算数知識で足りる)

「年度毎の補正」に記載されている「総得点及び各科目の平均点及び得点分布等」の文言が示しているように、社労士試験には医師国家試験(厚労省管轄)のような、いわゆる「地雷問題=禁忌問題」の観点は存在しません。過去の科目補正を検証した結果も、法改正や条文などの問題内容や科目を考慮した記載は一切ありませんでした。単純に、全体の得点を基に補正の可否判断が行われていました。
また、平成24年の厚労省担当者の回答も、『合格基準は、各年度において合否判定委員会で原則的に選択式及び択一式試験それぞれにおける各科目合計総得点の平均点及び各科目の得点分布から機械的に合格基準を算出し決定している。』と述べており、ここではさらに「機械的」との文言まで追加され強調していました。
このように、社労士試験の合格基準が全体の得点結果だけをもって
機械的な観点のみで決められているのであるなら、数値的にみて過去の合格基準と「整合性・公平性・継続性」がより強く求められるべきであると考えます。



3.科目最低点の補正、妥当性の検証


開示された「科目最低点の補正」を
要約すると、
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となっています。

この「Cの場合」については、平成23年度は上位文書である「合格基準の考え方」に記載
されていましたが、他の年度は「年度毎の合格基準について」にその理由が記載されています。

合格率「2.6%」は、この「Cの場合」が適用されなかったことが起因。

このことから、
・整合性の欠如
・公平性の欠如
・継続性の欠如
・合理的理由の欠如
であり、

実施機関による、著しい「裁量権の逸脱・濫用」 の結果であると断言いたします。

時代の要請に応じて、実施機関が出題の傾向を変えたり出題の難度を上げたりすることは何ら問題はありません。しかし、それを評定する「ルール」を「事前に公示することもなく大きく変更した」となると重大な問題であり、今までの合格者や社労士試験制度そのものを否定するにも等しい暴挙であるといえます。
そうではない「ルールに従い適正に行われた結果」だという事であるなら、実施機関である厚労省は、「国民の皆さんの声」などで発せられた多くの受験生の疑問に対して、「だんまり・無視」を決め込むのではなく真摯に向き合うべきです。それが本年4万人の受験生に対する責務だと考えます。直ちに、過去の補正と整合性がない理由を説明すべきです。それが出来なければ、本年の合格基準に「瑕疵」があったこと率直に認め合格基準を見直すべきだと考えます。


開示資料は公に公開されていないから、なんの拘束力もないとの見解を述べられる方が見受けられますが、この開示資料は「情報公開審査会で開示すべきとの提言を受けた、厚労省の公式文書であり、社労士法や合否判定委員会規約に基づいて行われた正式な「合否判定委員会」の重要な資料であります。それにも関わらず、一般に公開していないから「好き勝手に変更できる」との見解を述べられる方がおられるのが不思議でなりません。


次に、そのように断定した根拠を他の年度と対比しながら述べていきます。

本年、科目補正の妥当性検証(重要項目)
●平成27年(合格率2.6%)
もう一度繰り返しますが、本年2.6%の合格率は開示された合格基準の考え方に記載されている「試験水準を一定に保つ」の考え方や過去の「補正ルール」から乖離しており、実施機関の「裁量権逸脱・濫用」であると断言します。
労災と国年に整合性が取れていません。

【選択科目の平均点と得点分布】
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【総得点基準以上の受験生数(3700人、9.3%)】 ←後程、計算に必要になるデータ
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【総得点では合格基準以上の対象者」
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以上のデータを基に、過去の補正基準と比較し妥当性を検証していきます。

●平成23年(合格率7.2%)年の補正検証
【科目最低点の補正】
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この
平成23年度は本年度と比較する上で一番重要な年度と考えています。
平成23年度は、労災・基安・国年の3科目を、『②の第二の原則』を適用し補正を行っています。これは試験の水準(合格率)を一定に保つためでした。
この追加補正の適用がなければ、この年度も「3%」を割る合格率となっていたのは得点分布上からみて明らかです。
また、下記の表を見比べれてみれば平成23年と平成27年とは非常に似通った科目別得点状況になっていたことが分ります。しかし、平成27年は規定された第二の原則(追加補正)の適用がありませんでした。平成23年よりも平均点からみて難度が高かったにも関わらず追加補正がありませんでした。もちろん、これを説明できる規定や理由も存在していません。(整合性や公平性が全くありません)

【得点分布対比】
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上記『②の補正原則』に規定されている「補正要件」を比較してみると、次のようになります。
平成23年度
(1) 基準点以上の割合が概ね5割(51%目安)が複数科目
労災(35.1%)・基安(50.6%)・国年(51.2%)の3科目が該当しています。
(2) 総得点基準以上の不合格者の割合が概ね70%
⇒ 不合格者は9.8%以上
(基準以上は14%×概ね70%)で、この要件に該当していたと思われます。(確定できる資料が存在しない,
隠されている。)
以上の要件を満たしていることによって、該当の3科目が「試験の水準を一定に保つ」ために最低基準点の引き下げが行われ、合格率が7.2%まで上がっています。

この規定を本年にあてはめると、
平成27年度
(1) 基準点以上の割合が概ね5割(51%目安)が複数科目
労災(37.1%)・国年(43.2%)の2科目が該当しています。
(2) 総得点基準以上の不合格者の割合が概ね70%
本年合格率が2.5%(一般)なので、(2.5%÷9.3%)の計算から、基準点以上の合格者の割合は27%となります。そこから不合格者を出すと、73%100%-27%)となり、概ね70%の要件も満たしています。
しかし、本年は(1)と(2)の要件を満たしていたにもかかわらず、この「②の原則として補正を行う」理由もなく適用されなかったため、合格率2.6%となりました。

この平成23年度との比較からだけでも、本年の合格基準と合格率には、「整合性・公平性・継続性」がなく、実施機関の著しい「裁量権の逸脱・濫用」であることは明らかです。

この試験の全貌を知らない、理解しようとしない方々は、「たかが1点のこと、勉強不足の結果」と一刀両断に切捨てますが、この1点のためにいろいろなことを犠牲にして頑張ってきた多くの受験生がいます。この1点の壁が適正に行われた結果であるなら不合格も納得いくでしょうが、そうでなければ納得できる筈がありません。真の問題はこの1点の壁に公正さがあるかどうかです。


●平成25年度(合格率5.4%)の補正検証
【得点分布対比】
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【追加補正の理由】
『本年度の選択式試験の「社会保険に関する一般常識」については、2点以上正解している者が5割に満たないため、合格基準点(3点)を引下げ1点とする。(引き下げ補正した基準点(1点)未満の者の割合が3割以上という要件には該当しないものの、平均点が1.3点と低く、第42回(平成22年)の「国民年金法」の合格基準点を1点へ引下げた時の平均点(1.3点)と同水準、同分布割合であることから、引き下げを実施することとする。』

この年度も「社一の1点補正」がなければ、合格率は3%を割る低合格率になっていたことは得点分布上から明らかです。
本年度のような低合格率にならなかったのは、同じく「各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。」との合格基準の考え方に基づいて追加補正を行った結果でした。
しかし、本年は、同じように追加補正をしなければ「試験水準を一定に保つ」などできないにも関わらず理由もなく追加補正の適用がありませんでした。それが2.6%の合格率でした。

なお、
健保・労災も過去の1点補正の要件を満たしていたにも関わらず、1点補正の適用がなかったことについての私の個人的な見解は、1点補正を複数出したくなかった実施機関の「諸事情(体裁)」だったと考えています。ここも整合性がありません


●平成22年(合格率8.6%)の補正検証
【得点分布対比】
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【追加補正の理由】
「国民年金法」については、2点以上正解している者が5割に満たないため、合格基準点である3点を引下げ1点とする。なお、「健康保険法」及び「国民年金法」は、引下げ補正した基準点(健保2点、国保1点)未満の受験者の占める割合が3割以上という要件に該当しないが、今年は社会保険系の科目が全般的に難化しており、特に「国民年金法」は全科目を通じ過去最低の平均点となる1.3点 (それ以前はともに「健康保険法」のH16年度1.5点、H20年度1.6点であり、1点に補正)であること、「健康保険法」は対前年比で、平均点が-1点となっているが、3点→2点の補正を行っている他の科目の同対前年比( 「社会保険に関する一般常識」 -0.6点、「厚生年金保険法」 -0.7点 )に比べても難化していることから、引下げを実施することとする。』

この年度も「各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。」との合格基準の考え方に基づいて1点補正を含め「健保・国年」の2科目が追加補正がされています。

ここで述べられている要件(理由)を本年と比較すると次のようになります。
①全般的に難化しているから補正
平均点からみて全体的に本年の方が遥かに難化しています。
(H27年18.6点:H22年20.1点)
②前年比の比較で難化しているから補正
平成27年 補正無し科目⇒「国年」-1.7点 「労災」-0.8点
平成27年 2点補正科目⇒「厚年」-0.4点 「健保」-0.2点 「社一」-0.8点
この値をみれば、本年補正されなかった「国年・労災」の方が前年比が難化していることは明らかです。しかし、追加補正が一切されず合格率が2.6%となりました。

このように年度を比較してみると、補正の理由に「整合性・公平性・継続性」が全くないことが明らかになってきます。まるで行き当たりばったりとしか言いようのない、最低基準点の補正です。


●平成20年度(合格率7.5%)の補正検証
【得点分布対比】
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【追加補正の理由】
『「健康保険法」については、2点以上正解している者が5割に満たないため、合格基準点である3点を引下げ、1点とする。なお、①引き下げ補正した基準点(1点)未満の受験者の占める割合が3割以上という要件には該当しないものの、平均点が1.6点と低く、「健康保険法」の基準点を1点へ引き下げた平成16年の平均点(1.5点)と比べても同水準であること、②今年の選択式は難化が著しく、引き下げを行わなかった場合、選択式合格者は、14.4%(引き下げ後18.7%、昨年21.1%)となり、本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。以上により、引き下げを実施することとする。』

ここで述べられている要件(理由)を本年と比較すると次のようになります。
①他年度の引下げた科目の平均点と同水準だから補正
平成27年の労災2.2点、国年2.3は、平成26年の雇用2.6点に比べ、平均点が同水準どころでないことは誰が見ても明らかです。(後掲の表も参照)
②選択式は難化が著しいから補正
平成27年選択式の平均点18.6点、平成20年選択式の平均点22.0点
これも、遥かに平成27年度の方が難化が著しいことは誰が見ても明らかです。

しかし、本年この要件に該当しているにも関わらず、追加補正は一切行われていません。『引き下げを行わなかった場合、「本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反す
こと」。以上により、引き下げを実施することとする。』との考えはどこへいってしまったのでしょうか、なぜ平成27年にはその考え方の適用がなかったのでしょうか?

この年度からみても、補正理由に「整合性・公平性・継続性」がないことは明らかです。


●平成18
年度(合格率8.5%)の補正検証
【得点分布対比】
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【追加補正の理由】
『なお、「労基法及び安衛法」については、引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割以上という要件には該当しないものの、
平均点が2.48点と低く、引き下げを行わず合格基準点を3点とすることは、各科目について必要最低限の知識水準を求める科目最低点の趣旨にそぐわないこと。
(なお、基準点の引き下げを行う「雇用保険法」の平均点2.51点と「労基法及び安衛法」より高い。)
②今年の選択式試験は難化が著しく、引き下げを行われなかった場合、選択式合格者は、15.8%(昨年22.6%、引下げ後18.9%)となり、本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。以上により、引下げを実施することとする。』

この年度の引き下げ要件にも、「平均点が2.48と低く、引き下げを行わないことは、必要最低限の知識水準を求める科目最低点の趣旨にそぐわない」と述べられています。

これを平成27年に当てはめてみると次のようになります。
「労災2.2点」・「国年2.3点」は平均点が平成26年の雇用2.6点より低く、引き下げないと
必要最低限の知識水準を求める科目最低点の趣旨にそぐわないこと。
基準点の引き下げを行う「厚年2.3点・社一2.3点」は、労災2.2点よりも高く、国年と同等であること。今年の選択式試験は難化が著しく、引き下げを行われなかった場合、本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること以上により、引下げを実施することとする。』となります。
しかし、本年この要件に該当しているにも関わらず、追加補正は一切行われていません。『引き下げを行わなかった場合、「必要最低限の知識水準を求める科目最低点の趣旨にそぐわない。本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すこと」。との考えはどこへいってしまったのでしょうか?

ここまでくると、見て見ぬ振りして、笑うしかないのでしょうか


また、他には、
平成24年「社一2.1点」← 難度が一番高くて補正されなかった科目
平成21年の「労一2.3点」
平成26年の「労一2.3点」

も、ここで述べられている平均点2.48点よりも平均点が遥かに低いにも関わらず、基準点の引き下げが行われていませんでした。なぜかすべてが免除科目でした。
しかし、これらの年度は試験水準を一定に保つ(合格率7%前後から概ね10%)との考えから「追加補正しなくても7%を確保できていた。追加補正すると10%を超えるため補正を見送った」と強弁することができます。そのように弁明されるとそれを覆す証拠がないためそれ以上の追及は不可能かと考えています。
しかし、平成27年度はそうはいきません。

結論として
平成27年度の「労災・国年」は、「平成18年・平成20年・平成22年・平成23年・平成25年」の補正規定及び補正理由にすべて該当しており、
各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。』との考えで補正されるべき科目であると断言できます。
再度繰返しますが、


本年合格基準には、「整合性・公平性・継続性」がなく、実施機関の著しい「裁量権の逸脱・濫用」であると断言いたします。TKTK



令和3年10月29日 追加資料
今回の合格基準も前代未聞となりました。(すべてが、追加=例外補正のみ)
R03-H27対比





4.司法(裁判)の場で合格基準の妥当性を問うことは不可能なのか
この社労士試験合格基準の判定は、実施機関自らが「全体の平均点と得点分布で機械的に決めている」と述べているように、合否判定に著しくしく専門的、技術的性質を有するものでないことは明らかです。

しかし、そうであるにもかかわらず


技術士国家試験事件 (最高裁 昭和41年2月8日)
 で示された、『国家試験における合格、不合格の判定も学問または技術上の知識、能力、意見等の優劣、当否の判断を内容とする行為であるから、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであつて、その判断の当否を審査し具体的に法令を適用して、その争を解決調整できるものとはいえない』 と同等の合否判定であり、司法の場で補正基準の整合性や公平性などを問うことは一切できないとなるのでしょうか?

北海道大学入学試験でもこの最高裁の判例に沿った判断が下されていました。
北海道大学(合否判定) 損害賠償事件(東京地裁 平成2年6月27日)
『これらの試験の採点又は成績評定は、著しく専門的、技術的性質を有するものであること、これらの試験の成績その他前記資料を基礎としてなされる入学者選抜における合格・不合格の判定は、それが志願者の能力・適性に対する判断にかかるものである以上、その性質上必ずしも一義的・客観的な判断基準に従って判断するのには適せず、公正・妥当な試験実施機関の最終的な判断に委ねるのが適当な事項であること、』
総務省行政相談への回答もこの見解にしたがっていると思われます。

しかしながら、下級審ではありますが、次のような観点も示されています。

司法試験判定取消事件 (東京地裁 昭和49年9月26日) では、『しかしながら、右合否の判定にあたり、たとえば原告主張のように年令、性別、社会的身分、出身大学、出身地、受験回数等によって差別が行なわれたとするならば、それは司法試験第二次試験の目的である前記のような学識・応用能力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたいうことになり(いわゆる他事考慮)、そのような他事考慮がなされたかどうか、なされたとしてその他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は、試験実施機関の最終判断に委ねる必要のない裁判所による審査に親しむ事項であると解するのが相当である。』
と判示されており、そこで述べられた「他事考慮」の範疇に次の事項はあたらないのでしょうか。
平均点2.1の社一(H24)や平均点2.2の労災(H27)、平均点2.3(H27)の国年の基準が「3点」であり、平均点2.6の雇用(H26)や平均点2.7の国年(H24)の基準が「2点補正」であることが、難易度で補正が決まっていないことの証左であり、
「学識・応用能力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたと解するのが相当であるといえるのではないでしょうか?
それに加えて本年の合格基準(補正)は、前述したように過去の補正基準との不整合が重大な問題となるのですが、これさえも司法に問うことはできないのでしょうか?

また、このような事実があったとしても、現行制度での国家試験は誰も裁く事ができない「聖域」であるとするなら、国は新たな制度の導入を図るべきだと考えます。
国家試験が公正・中立に行われているかや受験者からの異議申立てを有識者によって調査・評価・提言などを行う第三者機関

「国家試験 審査会(仮名)」

を設立すべきだと強く提言いたします。でないと実施機関は「神」となります。




最後に、合否判定委員会についても述べておきます。
これについては、このブログの目的である「合格基準の明確化」から外れており、追及しても受験生の利益にならないと考えていましたが、今回の暴挙をみると考え方が変わりました。再度、追及させていただきます。

5.合否判定委員会の疑惑について
合否判定は、「社労士法」や「合否判定委員会要領」によって定められており、厚労省の職員が担っています。

● 社会保険労務士法
(試験委員)第25条の41 連合会は、試験事務を行う場合において、社会保険労務士試験の問題の作成及び採点を社会保険労務士試験委員(以下「試験委員」という。)に行わせなければならない。
● 社会保険労務士試験合否判定委員会要領
 3) 委員会の責務
 委員会は、当該年度に実施された社会保険労務士試験の採点結果を踏まえ、適性な合格基準を設定し、その基準に基づき合格者を決定する。

しかしながら、この合否判定委員会のあり方には、大きな「疑惑」が存在しています。
それは、この委員会で合否判定のために使用された資料(2枚の科目別得点分布表)だけでは、合格基準を決めることができたとしても、合格者数や合格率などを把握することができないだけでなく、「合格基準の考え方」や「年度毎の合格基準について」に記載されている数値を元に合格率の調整など「超能力者の集団」でもないかぎりできるわけありません。

①例年の合格率と比べて高くなる時、概ね10%を目安
②総得点では合格基準以上でありながら、不合格となる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)
③引き下げを行わなかった場合、選択式合格者は、14.4%(引き下げ後18.7%、昨年21.1%)となり、


しかも、合否判定委員会で検討されたとされる結果をまとめた「年度毎の合格基準について」には、すべての公式発表されたデータが漏れなく記載されています。(世界7不思議の一つです。)
なお、情報公開審査会の答申でも、私が「あるはずである」と要求した他の集計データは、「連合会試験センターがデータの集計・処理を行っているので、厚労省は保有していない」と開示には至りませんでした。この答申でも、合否判定委員会で合否判定に使用された全受験生のデータは、選択式と択一式の得点状況表の資料(二枚)のみであると認定されました。

これらの疑惑をまとめると、次のようになります。
疑惑(1) 不可能
合格基準を最終決定するために必要と思われる、補正適用別(最低点)の合格者数等が記載された集計表は存在しません。もちろん、厚労省から「試験センターのデータベース」にアクセスすることも出来ません。厚労省担当者に直接確認済みです。

(例)TAC合格基準分析資料にあるクロス集計表

しかし、会議のまとめとして作成されたとされる資料には全体合格者数や科目免除者数もハッキリと記載されています。どこからこの数字は出てきたのでしょうか、委員会メンバーが超能力者でなければ世界一のマジシャンなんでしょうか?

 疑惑(2) 誰が 
厚労省は、「年度毎の合格基準について」は合否判定委員会の結果(議事録相当)であり「まとめ」である主張されていました。しかし、開示された平成25年・平成22年・平成19年の「合格基準について」に記載されている「案」との表記を見れば、「まとめ」でない疑いが更に強くなってきます。


ここに「案」という記載があるという事は、この委員会の前にどこかで作成・仮決定されていたことを意味するのではないのでしょうか?
それなら、委員会の資料に、「免除者のデータ」や合格率の調整ができる詳細なデータ」が一切なかったことの説明がつきます。

なお、厚労省の事務局が前もって「案」を作成している。もしくは、委員自身が「案」を作成して持ち込んでいる可能性がないのかと思われる方もおられるでしょうが、厚労省担当者との会話や国民の皆様の声への回答でも、これは前もって作成された「案」ではなく、委員会の「まとめ」だと主張されています。
確かに、開示された資料に中には合否判定委員会で「複数案」を検討したようすなど微塵もありませんでした。このように決めたとなっているだけでした。
また、開示された資料の中には会議の開かれた「日・時」の記載がどこにもありません。開示された資料が「議事録相当」であるなら、開催日時を記載するのが常識と思っていましたが、厚労省にはこれも必要がないのでしょうか。
これらのことから、ほんとうに会議が開かれていたのかとの疑念も沸いてきます。


それでは、
① 合格基準は、実際は誰が決めているのでしょうか?
② 科目補正の「案」は、実際は誰がまとめているのでしょうか?
③ 整合性のない恣意的な補正は、実際は誰のお考えによるものなんでしょうか?



もし、合否判定委員会以外の組織や別の委員会で決定されていたならば、「社会保険労務士試験合否判定委員会要領」や「社会保険労務士法」から逸脱する可能性が懸念されます。毎年のように起こる受験生の疑問の声の原因は、ここにあるのでしょうか。

これについては、次のような貴重なご意見を頂いています。(コメント抜粋)
『 厚労省は、公益上の理由がないにも関わらず、内部的な事情により積極的に嘘をついているということですね!というのは、公開した方が公正性と透明性の確保 につながるにも関わらず、それを行わないため。この場合、今年度の試験に瑕疵があるのではなく、行政機関として、さらに重大な瑕疵が存在することになり大 問題ですね!試験センターが、合格率と合格者数の実質的なデータを保有しているとなると、試験事務の一環として、試験水準の維持を行っているということに なりますね。つまり、審査請求をすることができるということになりますね。今回のご返答と過去の記事を拝見し、少なくとも公文書管理法違反の疑いがあるということがわかりました。いずれにせよ、TKTKさんの過去の記事と併せて状況を整理すると、試験における適正手続は完全に欠落しているという結果に至りました。』

平成26年10月15日記載
(留意)
これから私が述べることは、原告の方々の考えを代表するものではなく、あくまで個人的な見解です。
原告の方々には、原告の方々それどれのご意見ご見解があります。
しかし、平成27年度の合格基準に「異議」があることは全員の共通事項です。


(1) はじめに
大阪地裁(AIJさん)の「求釈明申立書」への回答が厚労省よりありました。

【大阪地裁での求釈明申立書】
「合格率2.58%に思い留まった内心を明らかにされたい。
もし,政策的な意図があるとするなら,その理由を説明されたい。」

【厚労省回答】
『合格基準点は、当該年度の受験生の試験結果を踏まえ、「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために、試験の水準を一定に保つという観点から決定されるものであり、合格基準点の設定によって結果的に合格率が変動することはあっても、合格率を一定に保つといった観点合格者数を絞り込むといった観点から合格基準点を決定するものでない。
したがって、そもそも、厚労大臣(委員会)が、意図的に合格率を約2.6%にした事実はないから、回答の要を認めない。』

今、この回答を読まれた方々はどこに問題があるの?」と疑問を持たれると思います。「至極もっとも」な正論であるし、私もそう思います。しかし、そう思うには、の回答内容が「真実」であることが前提となります。

もし、平成27年度の合格基準が、このような考え方のもと適切に決定されていたのなら何ら異議を唱えることはしなかったでしょう。これらの内容がすべて真実であり、その真実に基づいて裁判官が判断を下すのであれば未だしもでありますが、その「嘘」を吟味することなく、頭からすべて「真実」として、裁判官が判断するとなれば憤りしかありません。

A地裁での判決は、厚労省の主張がすべて「真実」であるとの事実認定で、判決が下っています。はじめから厚労省の主張をすべて「真実」として事実認定し、それを前提として原告主張の是非を判断しています。前記事で「中東の笛」と記載したのはこのようなことからでした。

ここでは求釈明申立書での回答から、厚労省の「大きな嘘」を明らかにしていきます。これ以外にも「第3者の関与、持ち回り決議」などの疑義が散見されますが、裁判が進行中ですのでここでの指摘は控えさせていただきます。後日、AIJさんのブログで公開されるかと思います。
以下順次、開示された証拠をもって、その「大きな嘘」を証明していきます。



(2) 厚労省のこの回答での「大きな嘘」とは

「試験水準の維持とは合格率を一定に保つといった観点ではない」
意図的に合格率を2.6%にした事実はない」

しかし、

客観的なデータは、
「平成26年度までは、例年の合格率を考慮し合格基準を決めていた(試験水準維持)」
「平成27年度は、意図的か怠慢の結果(他事考慮)が合格率2.6%である」

と示しています。


それを証明するために、
まず、合格基準の合否判定に用いられた資料と考え方を示します。

科目補正(選択)で判断材料に用いられた資料は、
この「科目得点状況表(選択式)」しかありません。これは厚労省が裁判前からも一貫して主張していることです。
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年度毎の補正の考え方は、
「上記基準点については、各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験の水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。」と記載されており、厚労省事務局への問い合わせでの回答では、更に「機械的に合格基準を算出している」との文言が加わっています。

総合的に勘案して補正を行うとは、
裁判でも厚労省はこの科目得点状況表の「平均点・得点分布」しか判断材料にしていないと繰り返しているのですから、「総合的に勘案して補正する」の中には、年度毎の他の判断要素(政策、問題内容など)は一切存在しないことになります。(ここが一番重要な論点です。)

ならば、

科目得点状況表の評価方法(機械的)が常に同じであることを前提にすると、その結果である過年度の補正結果は整合性がとれていなければなりません。

もちろん、機械的とは、一定(同一)の「計算式」に則って導き出されると解されることは言うまでもありません。

しかし、客観的なデータからみて、
平成27年度の合格基準は、「過年度との整合性」がありません。厚労省の主張を再検証した結果(下記の表)、平成26年度までは一応整合性がありました。

次に、平成20年度から平成27年度の合否委員会の判断過程を示します。
厚労省主張の合否判定委員会での「持ち回り決議」の手順は次のようになります。

持ち回り決議の判断過程(原案→修正案→決定)
本件準則1(補正原則)の考え方で補正されたものが「原案」となります。
補正原則は、「合格基準の考え方について」を参照して下さい。
本件準則2(追加補正原則)の考え方で追加補正されたものが「修正案」となります。
*追加補正原則には、「(原案合格率)・平均点・得点分布・難化傾向・不合格者の割合・他年度比較)の6要件が存在しています。

(注意) なお、「準則(1と2)」の定義は厚労省主張のものではありません。
甲28 原案・修正案検証表


この対比表からもわかるように、
過年度、修正案で決定された年度(平成20年・平成22年・平成23年・平成25年)では、「追加補正」の要件を満たしていた科目はすべて補正されています。

しかし、
過年度、原案で決定された年度(平成21年・平成24年・平成26年)にも、「追加補正」の要件を満たしていた科目も常に存在していましたが、これらの年度に限って追加補正はされていません。(重要点)

厚労省の主張通り、平成12年度から「共通の機械的な評価方法」を用いて補正を行っていたのなら、平成21年・平成24年・平成26年も本件準則2(追加補正原則)が適用され要件を満たした科目はすべて追加補正が行われていなければならないはずですが補正は行われていません。
とするなら、得点分布や平均点以外の
「もう一つの要件」が判断要素として存在していなければ整合性が取れません。計算式がなりたちません。

それでは、
「追加補正適用の有・無」を決定する要件とは何なんでしょうか?

それは、過年度の「合格基準について」の記載内容にありました。

①合格率はともに7.6%となり,例年ベースを維持していること
②過去10年10%を超えたことがない(最高9.8%(H5)~最低6.8%(H6))

また、原案・修正案の比較表の検証結果の中に見出せます。

原案の段階での合格率が「7%未満」であった場合は、「本件準則2(追加補正原則)」を基に追加補正を行い、合格率を例年通りの範囲(概ね 7%~9%)まであげる調整(試験水準の維持)を行っていたことが明らかに見て取れます。客観的なデータは委員会が合格率を考慮していたことを明確に指し示しています。
平成25年度の合格率の着地点(5.4%)は1点補正候補が3科目あったため少し例外です。

上限の合格率については、
平成27年度などの「合格基準の考え方について」の中に、「科目の最低点引下げを2科目以上行ったことにより,例年の合格率と比べて合格率が高くなるとき(概ね10パーセントを目安)は試験の水準維持を考慮して,合格基準点を1点足しあげる」と記載されています。

このように、明確に、
合格率を指標(上限10%)として合格基準点を調整し試験の水準維持をすると記載しておきながら、

「合格基準点の設定によって結果的に合格率が変動することはあっても、合格率を一定に保つといった観点合格者数を絞り込むといった観点から合格基準点を決定するものでない。」 

などと主張することこそが、被告の自己矛盾を証明するものとなります。

これだけでなく、
もう一つ合否判定で「合格率や合格者数」を考慮していた事実が存在します。

合格率を考慮していた、もう一つの事実とは
それは、「持ち回り決議」で行われていた判断過程で、繰り返し出されたとされる修正案に添付される資料の中で、唯一更新されるデータは「合格率・合格者数・免除者の割合」しかないことです。(重要な論点)
厚労省の主張通り、合否判定において「合格率や合格者数」の考慮が必要でないなら、わざわざ連合会のデータセンターに指示し合格率や合格者数を何度も出し直しさせる必要がないのであり、委員会で合格基準が最終決定されてから、連合会にデータの更新を依頼すればいいことなのは言うまでもありません。

平成27年度の合格率2.6%になったこと、
労災・国年に追加補正の適用がなかったことについて

これらについて厚労省は次のように主張しています。
① 「厚労大臣(委員会)が、意図的に合格率を約2.6%にした事実はない。」
② 「労災・国年は本件準則1(補正原則)に適合しなかったから(要約)」
  厚労省は、平成27年度の合格基準は、「本件準則1(補正原則)」に基づく科目補正を行った結果であるとだけ強調し、平成12年度から平成27年度まで、同じ「本件準則1(補正原則)」のみで、合否が決定されていたかのような印象を与えようとしています。裁判官には、「本件準則1(補正原則)」だけを前提条件として、平成27年度の補正が適合しているかのどうかの判断をさせようとしています。(A裁判所では、厚労省の目論見通りになりました。)

しかし、「原案・修正案の対比表」や「合格基準の判断過程」で示してきたように、
実際は、「本件準則1(補正原則)」と「本件準則2(追加補正原則)」を用いて、過年度から合否判定を行っていたことは明らかです。
なお、本件準則(1・2)の定義分けはこちらでしたものです。

開示された資料と厚労省の主張を精査した結論として、

平成26年度までは、
① 得点分布の要件 =「本件準則 1(補正原則)」
② 原案合格率の要件 =「連合会算出データ」
③ 得点分布の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
④ 平均点の要件   =「本件準則2(追加補正原則)」
⑤ 難易傾向の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
⑥ 不合格者の割合の要件 =「本件準則2(追加補正原則)」
以上の要件を「総合的に勘案」して合格基準を決定していた。(修正案で決定)

平成27年度は、
①得点分布の要件 =「本件準則 1(補正原則)」
の要件のみで合格基準が決定されていた。(原案で決定)

このように、
平成27年度の労災と国年は、「②③④⑤⑥」の要件に完全に適合していたのにもかかわらず、平成27年度は過年度のように「追加補正」が適用されていないことは明らかですが、厚労省が本件準則2(追加補正)についての検討をした結果かどうかの回答も拒否しているため真相は不明のままです。

しかし、すべての証拠(書面・主張)を総合的に鑑みれば、

平成27年度の合格基準(合格率2.6%、労災・国年補正なし)は、委員会や第3者の意図的(他事考慮)な判断であったか、委員会の怠慢(考慮不尽)の結果であったかの、どちらかであることは間違いのない事実です。


最後に、(私見)
厚労省は裁判の前提条件となる事実について、「試験水準の維持とは合格率を一定に保つといった観点ではない、意図的に合格率を2.6%にした事実はない」などと嘘はつかずに、

「過年度は試験水準の維持のため、合格率を一定に保っていた。しかし、平成27年度は「●●●」の理由のため、労災と国年を補正せずに合格率2.6%で決定した」と、正々堂々と事実を主張すべきであると考えます。

厚労省が、それらの理由が、実施機関の裁量権の範囲であると確信しているならそうすべきです。それが実施機関の責務であると考えます。
そして、それらの理由が「裁量権の逸脱・濫用」であるのか否かを司法の判断に任せればいいだけのことです。

何故そこまで嘘をつく必要があるのか、何を隠そうとしているのか・・・?

今回の裁判で明らかになることを望みます。

以上



令和3年10月29日 追加資料

今回の合格基準も前代未聞となりました。(すべてが、追加=例外補正のみ)
R03-H27対比


2016月10月5日記事
【判決】平成27年社労士試験 (A地裁)不合格取消請求訴訟

このような訴訟が全国で同時に行われたのは前代未聞の出来事です。
裁判は、全国数か所で進行中です。(労災・国年の補正)
原告の皆さんは、弁護士に一切頼ることなく、自ら、法令・判例を調べ、力を合わせ、「本人訴訟」でこの戦いに挑まれています。

先行していたTetさんの裁判で棄却判決が出ました。(残念です!)

判決「主文」
1.原告の請求を棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。


最高裁判決を根拠とする「却下」ではなく、
本件訴えは「法律上の争訟に当たる」と判断されています。

判決文を読んだ感想ですが、
① 事実認定に大きな問題があります。(中東の笛を思い起こしました。)
裁判官は被告の主張をすべて事実として捉えた上で、原告主張を判断しています。
事実として、被告の主張には多くの矛盾点があり信憑性に欠けていることは間違いありません。その内容については他の裁判が進行中ですので、ここでの説明は控えさせていただきます。
(追記)裁判における厚労省の「大きな嘘」
http://tktk00099.blog.jp/archives/3795021.html


② この判決文の中で、私が一番驚いたのは次の文面です。

「社労士試験においては、処分行政庁が受験者に対して格者数及び合格率の決定理由を説明ないし告知しなければならないことを定める規定等の法令上の根拠は存しないことに加え、事前に目標合格者数等が掲げられておらず、処分行政庁において、合格者数及び合格率を過去におけると同様の一定の水準に維持すべき義務は存在せず、・・・・・・決定理由(具体的な科目の合格点数の設定理由を含む。)を受験者に対して説明ないし告知しなければならない義務があるとは解されないことから、処分行政庁が受験生に対して原告主張のように合格者数及び合格率の決定理由を説明・告知すべきとはいえない。」

要するに、
規定・法令の定めがなく、事前目標として掲げていないから、
合格率や合格者数などを過去と同様の水準に維持すべき義務はないし、その決定理由を受験生に説明・告知する義務はない
(合格基準の考え方も法令に定めはありません。)

「その決定理由を受験生に説明・告知する義務はない」


決定理由とは判断過程であり、それを公開する義務はない。受験生はそんなことまで知る権利はない。昔のように、パンドラの箱(合格基準の考え方)を閉めなさいとの判示であるとも解釈できます。


例えば
本年、労一の選択科目基準点が4点と突如発表されても、説明する義務は厚労省にないということになります。この裁判官によって、絶大な「お墨付き」をもらったことになります。

今後、
「合格基準の疑問点」について受験生が質問しても、○○裁判所で判示されたように定めがないから説明する必要はないと無視されるかもしれません。

「合格基準の考え方」を開示請求しても、○○裁判所で判示されたように定めがないから開示する必要はないと、今後は情報公開審査会の答申を無視するかもしれません。


数多くの受験生の疑問や思いに対して

総務省は管轄外であると逃げ、
厚労省は無視を決め込み、司法はそれを後押しする・・・・・。

しかし、このような状況であっても裁判を起こされた方々は、怯むことなく、次の裁判に向け闘志を燃やされています。


2017年2月16日記事
【判決】平成27年社労士試験 (大阪・A・B地裁)不合格取消請求訴訟

最後の臨時記事として
、裁判の判決についての所感を述べさせていただきます。
なお、ここで述べる内容は原告の方々の意見を代表しているのではなく、私個人の見解であることをご理解いただければと思います。

【判決について】棄却
主な争点は「裁量権の逸脱・濫用、考慮不尽、手続き瑕疵」について

司法の判断は、
「社会保険労務士法及び社会保険労務士法施行規則定めがない事項については、すべて試験実施機関の広範な裁量権に委ねられる。」ともとれるものでした。

残念ですが、
以前の記事で私が懸念していた結果となりました。


(号外2)
社労士試験 不合格取消請求訴訟 2016/09/18
(抜粋)
なお、この裁判は、今後の「国家試験のあり方」について重要な判例となると考えています。過去の不合格取消訴訟では、原告側からの証拠がこれほど多く提出されたことは一度もありません。その証拠によって「事前説明もなく、合格基準を変更してきている」ことが明らかとなっています。また、被告は、過年度の合格基準が決定された際の判断過程を示す重要な「原案・修正案」は事務局判断で破棄しているから提出できないと考えられないような主張もしてきています。これらを含め、合否判定委員会が適正に行われたことの証明も今だ不十分なままです。
それにもかかわらず、仮に、最高裁の判例に沿った判決が下された場合、今後、国家試験といえども「実施機関の自由裁量が全面的に認められる」とのお墨付きを得たことになってしまいます。裁量について誰も制御できなくなります。
本年、事前説明もなしに、選択科目基準点は4点以上にする。となっても、誰も異議を唱えることはできません。異議を唱えても、厚労省は、「社労士法で具体的な基準を決めていないから、何ら問題はない」と裁判と同じ発言を繰り返すだけでしょう。その理由を問うても、「総合的に勘案して決めた」と抽象的な発言を繰り返すだけでしょう。(果たして、このような状態が正常といえるのでしょうか?)
(抜粋)

要するに、判決(
A・B・大阪地裁より抜粋)は、「法」に定めがないから、


①合格基準の「決定理由」について、受験生への説明義務はない。
処分行政庁が受験者に対して合格者数及び合格率の決定理由を説明ないし告知しなければならないことを定める規定等の法令上の根拠は存しない。・・・・
受験生に対して原告主張のように合格者数及び合格率の決定理由を説明・告知すべきとはいえない。

②合格基準設定や合格率等、「過年度との整合性」は必要ない。


基準設定の「明白な矛盾点」も法的には問題ないと言うことになってしまいます。


「本件考え方」
には本件試験以前に実施された社労士試験に係る「考え方」が本件試験に適用されるとの記載はなく
かつ、これを定めるかどうかや、本件合格基準のうち、本件科目の合格基準点を1点下げるかどうかもまた、処分行政庁の広範で専門的かつ技術的な裁量に委ねられているものと解される。(大いに疑問のある判示です)

【過去の合否判定 検証表】
http://tktk00099.blog.jp/archives/3795021.html
甲28 原案・修正案検証表
本件準則1(補正原則)は、上記「合格基準の考え方について」が該当。
本件準則2(追加補正原則)は、「(原案合格率)・平均点・得点分布・難化傾向・不合格者の割合・他年度比較)の6要件が該当。

③合格基準「決定手続き」についての制約はない。
社労士試験の合格基準の決定手続きについて、社労士法及び同法施行規則は何ら定めを置いておらず、いかなる手続きにより合格基準を決定するかは、厚生労働大臣の専門的かつ技術的な裁量にゆだねられるものと解される。

原告はより詳細な判断過程が示されていないことをもって平成27年度合格基準の決定手続きが違法であると主張するが、判断過程を書面に残すことを求める根拠法令はなく、関係法令に基づかない独自の見解であって採用できない。

厚労省の虚偽の主張(合格基準策定における明らかな第3者の関与合格率考慮の否定)等は裁判官の「自由心証」として、判決では完全に無視されていました。

厚労省の主張(弁明)が、虚偽であるかどうかは、次の記事をお読みいただき、良識の有る皆様にてご判断をしていただければと思います。

裁判における厚労省の「大きな嘘」
http://tktk00099.blog.jp/archives/3795021.html

「合否判定において、第3者関与の事実はない」
「合否判定委員会は適正に行われている」
「試験水準の維持とは合格率を一定に保つといった観点ではない」
「意図的に合格率を2.6%にした事実はない」
 

最後に、
現状、これらの判決が示すように、試験実施機関には「専門的・技術的」という名のもとに、絶対的とも言える、広範な裁量権が与えられているのであるなら、法に定めがなくても、「合格基準手続きを適正に行い、受験生に対して合格基準の理由説明を十分に果たすこと」が実施機関の正常な在り方であり、社会的責任であると考えます。

でなければ、社労士業界にとっては結果的にマイナスになると思われます。
「司法の場で裁かれないとしても、いつか世論の声に裁かれる」 
そのような事態にならないことを切に願っています。

今後の社労士試験の改善と社労士業界の益々の繁栄と安泰を願っています。
TKTK



2017年09月11日記事
【最終報告】社労士試験(H27)不合格取消請求訴訟 結審 

平成29年9月8日の大阪高裁にて、すべての訴訟(地裁4件・高裁2件)が結審となりました。
今回の控訴審判決も、残念ながら地裁判断に沿った内容(不当判決)のままであり不本意な結果となりましたが、大阪高裁の裁判官は今までの裁判官とは異なり、提訴した受験生の「心情」に理解を示していることが一抹の救いであると考えます。


①受験生の「心情」への理解があった。
「(判決文抜粋) 社労士試験の受験者として,過年度に比して平成27年度の合格者数が少ない(合格率が低い)という結果に不満を抱く心情は理解できないではないが,上記のとおり,それらの点について基準が定められているわけではなく,平成27年度の合格基準が定められた準則(社労士試験の考え方について)に反するものとはいえない以上,やむを得ないものといわざるを得ない。

②追加補正の存在については、明確に「事実認定」された。
「(判決文抜粋) 確かに,上記準則の補正基準は「原則として」とされていることや,現に平成18年,20年,22年,(23年),25年度には,補正基準に該当しない追加補正が行われていることからすれば,補正基準は例外を許容するものであると考えられる。」

しかし、裁判官はこのように述べながらも、
平成27年度に、過年度と同等の諸条件(原案合格率・平均点・得点分布・難化傾向・不合格者の割合・他年度比較)の6要件が全て揃っているにも関わらず、追加補正(労災・国年)を行わなかった「不整合性」については、下記のように違法(裁量権範囲の逸脱)とは認められませんでした。TKTK


③裁量権の逸脱または違法なものということもできない
「(判決文抜粋) そして,基準として合格者数も合格率の下限も定められていないし,控訴人主張のような基準があることも認められない以上,平成27年度の合格基準を定めるに際して,一定の合格率に収めるなどのために例外処理(追加補正)をすべき義務があったとまではいえないから,例外処理(追加補正)をしなかったことをもって,裁量権の範囲を逸脱または違法なものということもできない。


以上

2019年11月吉日

原告の方々の、
今の「思い」を記載させていただきました。(AIJさん、R_Lさん、Tetさん、Ultさん)


◎ AIJさん
※訴訟を終えて
①  平成26年度と平成27年度の比較 (数字の開きに驚愕しました)
対比表
②  参考 ゴールポストの幅⇒サッカー:7,32m ラグビー:5,6m 「数値が似ている」
 〇資格取得を目指す各選手はそのゴールを目標に,日々練習を重ねるのですから!
③  正直,平成25年度の5,41%も低いと思いましたが,さらにその半分以下の急激な変化を合格発表時に体験して,ほんとに驚きました。合格基準を事前告知無く変更したのか?
◆TKTKさん及び訴訟を検討した皆さん並びに訴訟を行った3名の方の協力のもとに「訴状と準備書面」を作成することができましたことをこの場を借りて,御礼申し上げます。      

④  私の主張は,訴状,原告各準備書面,控訴理由書のとおりです。
⑤  厚労省の主張は,被告各準備書面のとおりです。
⑥  裁判所の判決は,地裁,高裁の判決文のとおりです。
⑦  「マークシート方式」の国家試験において,「合格率」は試験結果であって,違法性は無いとの判断が下されました。残念です。

※疑問に残ること
①  7名の委員からなる「合否判定委員会」を開催する旨,規定しているにも関わらず,「委員会」を開催していないのには,非常に疑問が残ります。内部規定にせよ決めたことは「決めたとおり」実行しないとダメです。審査委員(審判)は毎年変わるのですから!
②  委員会を行わず,幾度となく持回り審議をした旨の内容の中に「審議内容は,必要が無いから破棄した」との文言には,驚きました。 ビデオ判定(検証)は,出来ませんでした。
③  国家試験のあり方として,「国民にとって,これで良いのか?」疑問は残ったままです。

※厚労省に対する要望
(社労士は,多くの国民が受験をする魅力のある資格です)
①  年度において,難易度が変わるのは,当然ですが,国民の中で資格取得を目指す受験者は、「合格率」を指標にすると思います。「合格率」が「上限:10%,下限:2%台の幅でぶれる」のはどうかと思います。(急激な6,75%減を,不合格処分を受けた受験者は納得しないでしょう!)
②  平成12年度に,答申を受けて,「合格基準の考え方」を策定しているようですが,社会情勢等に合わせて,「合格基準の考え方」を見直するのであれば,「受験要項」で事前に変更を示すべきです。 検証ができる年度,「平成18年・平成20年・平成22年・平成23年・平成25年」は見直しを行って,合格者及び合格率を一定の範囲に収めていた事実は変えられないのですから。
③  「起案方式」が行政のスタンダードであれば,「合否判定委員会」を解散して,「起案方式」に内部規定を変更すべきです。そして,幾度となく持回り審議を行なった「審議内容」を残し,後日の紛争防止に備えれば,問題は無いと考えます。
④  「マークシート方式」の国家試験ですので,開示された「科目得点状況表(択一,選択)」と過去より策定し未開示の「センタク,タクイツ ドスウヒョウ」の試験結果を公表して,合格者を決定すれば,受験者は納得して,問題ないと思います。
⑤  何かの理由(・・・)があって,足切り数値「択一,選択」の違いがあるのでしょうが,両方とも同一にして,合計点を競わせればと何ら問題ないと思います。ゴールポストはある一定の幅に必ず収まります。
(既に検討されていると思いますが,今後の受験者のために,早めに実施して,「試験要綱」に事前公表をしてください!)
(・・・方も大事ですが,多くの一般受験者のための,資格試験であってほしいと考えます。)

※資格取得を目指す選手(受験者)の皆さんへ,厚労省が「合格基準の考え方」の見直しを行わなければ,ゴールポストの幅は,各年度において,上限10mから下限1m台もあり得ることを念頭に置かれた方が良いかと思います。

                                   以上

**************

◎ L_Rさん
◆後日談
こんにちは。B地裁にて原告となったL_Rと申します。
受験生の皆様、日々、仕事や家庭にお忙しいなかの受験勉強、大変お疲れさまです。
また、これから社労士受験をご検討中の皆様、士業はやりがいの感じられる非常に素敵な職業だと思います。
勉強は大変であっても、目指す価値は十分にあると個人的には思っておりますので、
お互いに頑張っていきましょう。

さて、本題のH27年の社労士試験の裁判につきまして、私自身の経緯からご説明申し上げます。
当時の社労士試験が終わり、受験予備校の合否判定診断では「ほぼ合格」の結果を得て、
「無事合格だろう」と思いつつ、11月の試験結果の発表を待っていました。
ところが、試験結果は「不合格」。

ここで初めて、社労士試験の合否判定に興味を持ち、TKTKさんのブログと出会いました。
TKTKさんのブログで詳細に分析なされていますが、調べれば調べるほど過去の試験との非一貫性、不整合性であったり、厚労省の主張の不合理な部分が目立ち、何かを隠しているのではないかという印象がますます強くなってきました。

そして、厚労省自体にアプローチしたところで、本件に係る論理的に明確な返答を得られる見込みがなかったため、裁判所に頼らざるを得ない状況となりました。
正直なところ、本人訴訟とはいえ費用もかかりますし、労力も考慮して裁判はかなり迷いましたが...

裁判につき、私が注力したポイントは次の2点です。

1.手続き上の瑕疵の存在が認められること
2.行政庁の裁量権の逸脱、乱用が存在すること

上記1につき、被告は当然のことながら、裁判所法3条1項を主張し、法律上の争訟にあたらないことを主張してくることは最初からわかってるし、厚労省の不明瞭な手続きを明らかにし手続きの瑕疵が存在することを証明することが趣旨であるため。

上記2に関しては、「試験水準の維持」以外に社労士制度に係るプロパガンダが合否判定の背景に存在し、裁量権の逸脱、乱用がなかったかを明確にしなければならないため。
結果の詳細は各書面の通りとなりますが、最も私の印象に残ったのは、合否判定委員会は持ち回り制(※下位のものから上位のものに決裁を回す方法)の起案用紙に発議印すら押しておらず、裁判中に作成することだって可能な非常に不十分な証拠書類。

また、起案用紙について座長、以下委員の押印の代わりに赤鉛筆で名前が全く読めないような赤丸でサインしてあるのみ。(座長の署名欄に赤鉛筆で丸「ち?」とのみ書いてありますが、未だに読み方がわからない)厚労省の内部統制をかなり疑った瞬間でした。

この事件以前に同省は、年金記録問題があり、以後には不正統計問題が生じています。
私たち国民は、「行政がやっていることだから大丈夫だろう」と安心せず、行政機関が適正に運用されているか、不当に国民の利益が侵害されていないか、そして行政の恣意的で不合理な判断や管理がなされていないかをもっと考えて、国や都道府県、市等と接しても良いのではないでしょうか?

もちろん単なるクレーマーにならないように注意して、今後関わる多くの人々の利便性につながる適切なアプローチが行政機関に対し求めらる場面もあると思います。
私は社労士ではないですが、一士業の端くれとして、今回の経験を活かし、多くの依頼人のために頑張っていきます。

最後になりましたが、TKTKさんをはじめ、全国各地で一緒に裁判を戦った皆様、そして応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。
L_R

**************

◎ Tetさん
平成28年度社労士試験以降、得点分布を含む合格基準が公表されるようになりました。
試験の透明性が確保されるようになり、受験生にとって良かったと思います。

社労士は働き方改革で注目されております。
労務のスペシャリストとして、益々の発展を期待しております。

**************

◎ Ultさん
まずは、予め長文になることを、御容赦下さい。

訴訟を起こしたのは4人の中で、訴訟の順番では私が一番最後でしした。
(多分、訴訟が出来る締め切りの1日前に、訴状を提出したと記憶しています)
そして、こうしてコメントするのも、また自分が最後となりました。

訴訟について、TKTKさん、そして先に本人訴訟を起こされておられた3人、AIJさん・Tetさん・L_Rさんにお世話になりっぱなしでした。改めて4人の方々には、感謝するばかりです。

私は、単なるしがないサラリーマン受験生。しかし、他の方々は、すでに法律に詳しく、活躍している方々です。
私は彼らをを信じるしかなかったし、付いていく事で精一杯でした。

私たちが訴訟を起こしたことについては、当時、賛否両論あったと記憶しています。
「勇気ある行動」という賞賛の一方で、中には「訴えてる時間があったら勉強しろ」という辛辣なものもありました。、
訴訟の詳細については、TKTKさんのこのblogに詳しいので省きますが、裁判に臨む際、明らかに厚生労働省から裁判所に対して圧力があった事が伺いしれました。
『判決言い渡しの前なのに、被告側弁護団の方々、予め自分たちが勝つと分かってなけりゃぁ、普通そんなことしないでしょ」、と突っ込みたくなるような行動が見受けられたのです。
裁判に負けた時期、まだ私は受験生でした。ですので、負けたことが悔しいとかそんな事を考える余裕はありませんでした。
しかしただ、『負けてしまったけれども、自分たちができる最大の抵抗はやり切った」という気持ちはありました。
そして、『ここまでやったのだから、絶対に合格するまで社労士試験には挑戦し続けよう』、という気持ちが芽生えたのも、この時からかもしれません。

私たちが訴訟を起こしたことにより、『裁判には負けたが、勝負には勝った』と言える結果が見えてきました。
平成27年(2.6%ショック)まではなされてなかった、得点分布を含む合格明確な合格基準が、H28年以降、公表されるようになったのです。
このことについては、有名予備校の講師の方も、「訴訟が起こったことが、少なからず影響している」と発言されています。

一方、合格の基準が公表されるようになったのはよかったのですが、肝心の私自身がH28年以降も、なかなか合格できませんでした。
模擬試験では「合格確実」を取ることが出来ても、本試験当日になると、どうしても合格点を超えることが出来ないまま、数年が経過しました。

そして今年、平成31年(令和元年)の第51回社会保険労務士本試験、当日。
やはり、敵は強大でした。択一はなんとか合格予想点を超える事が出来ましたが、
選択式社会保険一般常識が2点しか取れませんでした。
その状況は、全くあのH27年の時と同じです。
もしまた、「救済が確実視されている社会一般常識が、あの時みたいに救済がなかったら.......」
私の心の中は不安でいっぱいでした。

今回私のコメントが最後になってしまったのは、TKTKさんにコメントを求められた時が、まさに合格発表待ちの時期であり、不安で不安で、コメントが出来る状態ではなかったからです。

11月8日に合格発表があり、ご存知のように、社会一般は予想通り2点に救済されました。

私たちが訴訟を起こし、合格基準が明確に示されるようになり『=厚生労働省が恣意的に科目をいじって合否を操作することが出来なくなったことにより』、正しい合格基準に合わせて合否が判断されることとなった。
つまり、4年越しとはなりましたが、訴訟を起こしたことにより、私は私自信を救済することが出来ました。

訴訟を起こしたあの時、「訴えてる時間があったら、勉強しろ」と言った輩に対して、今は、こう返したいです。

勉強してるだけで、あなたは誰かを救うことが出来ましたか?
勉強してるだけで、あなたは何か状況を変えることが出来ましたか? と。
批判だけなら、誰でも、なんぼでも出来ます。

行動を起こしてこそ価値があり、何かを変えることが出来るのだと、今回の訴訟を通じて感じます。

私たちが訴訟を起こしたことは決して無駄ではなかった。
何度も書きますが、合格基準が明確になった事で、私自身を含め、多くの受験生が救われたはずです。

そして、選択式労働一般の出題の基準など、社会保険労務士試験には、まだまだ問題があるとは感じますが、少なくともH27年以前よりは、より良い状況になったと確信しています。

最後の最後に。
AIJさん・Tetさん・L_Rさん、そしてTKTKさん。

今年やっと社労士試験に合格し、少しだけ皆さんに近づけました。
みなさんには、感謝しかありません。
あの時、お仲間に入れてもらって、本当に、本当に、本当にありがとうございました。

長々失礼いたしました。   ULT





 

平成2829

大阪地方裁判所 御中

                       原告 ●●●●

 〒●●●-●●●
                       原告 ●●●●

 

100-0013東京都千代田区霞が関1-1-1
             被告 国

             同代表者 法務大臣 岩城光英

100-8916東京都千代田区霞が関1-2-2
             処分行政庁 厚生労働省

             厚生労働大臣 塩崎恭久

 

平成27年度社会保険労務士試験合格基準の取消請求事件

  

 請求の趣旨

 

 1 厚生労働大臣が行った平成27年度社会保険労務士試験につき原告を不合格とする処分を取り消す。

 2 厚生労働大臣は平成27年度社会保険労務士試験の選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用せよ。

 3 訴訟費用は被告の負担とする。

 

 

 

 請求の原因

 

第1,厚生労働省による平成27年度社会保険労務士試験実施要綱の合格基準から,原告(受験者)が認識できる明確な合格基準(号証-2)は存在しない。過去15年間の合格基準推移から長きにわたり各年度間の試験水準を一定に保つ為に合格者数・平均合格率(8,35%)を維持してきたこと(10号証-1)は明らかである。原告は過去の合格率を指標にして社労士試験に臨んだ。平成27年度の行き過ぎた驚愕の合格率(2,58%)と選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用しない決定に疑問があり,意見書の提出(12号証)・内容証明の送付(13号証)を行なった。合格基準決定に至る過程を明らかにする為,平成27年3月6日の情報公開・個人情報審査会の答申書にて開示すべきであると判断され、平成27年4月3日厚生労働省発基040321号の決定書によって開示された「合格基準の考え方」、年度毎の「合格基準について」や年度毎の「科目得点状況表」(4~11号証)の資料を元に確認作業を行うと社労士試験合否判定委員会(以下委員会という)の合否判定手続に重大かつ明白な瑕疵がある事,合格基準決定過程において他事考慮の疑いがある事,合否判定を導くための重要な文言を削除した過失がある事,裁量権の逸脱・濫用行為の疑いがある事が判明した。

第2,情報公開・個人情報審査会答申書により開示された資料には,①合格基準の考え方について,②年度毎の合格基準について,の題目で,委員会で合格基準の決定に用いられた「考え方」(甲4号証)とそれによって決定された理由「合格基準について」(甲5~6号証)が存在している。そこには,「合格基準点」設定の理由について,『選択式試験,各科目を3点以上にした説明として※各科目3点以上が5割以上いたため(4号証-1)』,「年度毎の補正」の理由・目的・方法について,『各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから,試験水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。(4号証-1)』と規定されており,その考えに基づいて15年間,試験水準を一定(合格率7~9%)に保つために合格基準点の補正が継続的に行われてきている。又,各年度間の難易度調整を目的とする資料には,(1)総得点の補正②総得点基準の調整に関する「概ね10%(合格率)を目安」の数値(4号証-1),③総得点の補正を導く方法(甲4号証-2),(2)科目最低点の補正②科目最低点の引き下げ補正について「概ね5割(51%を目安)」・「概ね70%を目安」にする数値を用いた試験水準維持を目的に合格基準(4号証-2)も存在する。これらの記載から,過去の委員会では合格基準を「合格基準の考え方について」(甲4号証)を元に,その年度の合格率や平均点・得点分布の状況を踏まえ,試験の水準を一定に保つ目的で合格率(7~9%)が一定の範囲におさまるように合格基準の調整・再設定(5~7号証)を行っていたこと,特に選択式において,追加補正科目(5~7号証・甲11号証-1,2)を行なっていた事が判明した。平成22年度までは上記『②科目最低点の引き下げ補正について「概ね5割(51%を目安)」・「概ね70%を目安」(平成23年度に追加)』の文言を「合格基準の考え方」に記載していなかった為,各年度追加補正に至った理由(甲5~6号証)を明確に記載している。平成27年度に限り,この調整・再設定が行われておらず,その結果2,58%の異常に低い合格率になったことも明らかとなった。

第3,平成27年度合格基準(合格率2,58%)決定と選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用しない決定の過程を明らかにする為に厚生労働省へ確認したところ,委員会において使用された資料は①選択式得点状況表,②択一式得点状況表,③総得点乖離状況表の3点(号証)のみである。この3点の資料からは上記第2の数値を用いて合格基準を導くのは外形上客観的に見て明らかに不可能である。又,厚生労働省は3点以外の資料の存在と保管を全面否定している。試験事務を管理している社会保険労務士連合会内の試験センターは合否判定に関する事務への関与を一切無いと否定(号証)している。

第4,開示資料等から委員会で使用された合格基準を定める為に必要な他の資料を破棄・隠蔽していたならば「公文書管理法第4条」・「厚生労働省公文書管理規程第9条」違反,更に委員会は承認するだけの機関として存在し,他の機関で合格基準が決定されたのであれば,委員会による合否判定の不存在となり「社会保険労務士法第10条の2」・「合否判定委員会要領」違反の疑いがある。開示請求により,過去の選択式補正科目の合格基準決定の説明文内の(案)の表記(5~6号証),委員会の開催日・開催場所・出席委員名簿・正式な合格基準決定過程の資料の不存在等から,合否判定過程に合理性が見出せず上記の疑いが増幅される。これらの事から平成27年度委員会の合否判定手続に重大な瑕疵がある。瑕疵ある行政処分により決定された「不合格処分」の取消と選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用する判定を求める。

第5,仮に委員会において,法に照らし合理的にふさわしい判断をして合格基準を決定したのであれば,その決定に至る過程を明確にすべきである。過去の年度と比較して合格者数(合格率)の大幅な減少は,過去において適用していた合格基準の見直し(甲14号証)をしたのは明らかである。「試験要綱・試験形式」の変更,及び「事前の合格基準見直し告知」が無く,基準見直しの背景にあるもの(追加補正科目を複数出したくない,故意に合格者数の絞込み等)を重視し,本来考慮すべき「社会保険労務士法第9条規定の社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力を有するものを合格者とする」試験である事を考慮していなければ目的違反・動機違反であり他事考慮にあたる。そのような他事考慮がなされたかどうか,なされたとしてその他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は司法審査の対象になると考える。

第6,更に合否判定を行うのに重要な上位文章「合格基準の考え方について」内の『科目基準点の設定説明文※各科目3点以上が5割以上いたため(甲4号証-1),②科目最低点の引き下げ補正について「概ね5割(51%を目安)」・「概ね70%を目安」にする数値(甲4号証‐2)』と『③総得点の補正を導く為の細かな説明・対比表(甲4号証-2)』の記述を削除(甲14号証)している。削除された「合格基準の考え方について」(甲14号証)を元に平成27年度の合否判定を行い,選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用しない決定,故意に合格者の絞込みを行ったのであれば重大かつ明白な過失である。

第7,選択式補正科目について、その合格基準を適用する,適用しない,の判断は委員会の裁量にて決定されるとしても,平成27年度の選択式労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用しない決定は過去(平成18年・平成20年・平成22年・平成23年・平成25年)の追加補正科目適合合格者(5~7号証・11号証)との整合性・公平性・平等性・継続性を著しく欠き,かつ比例原則に違反し委員会構成委員による行政事件訴訟法第30条に定める裁量権の逸脱・濫用行為にあたる。


第8,「憲法第14条法の下の平等」の視点から,過去の選択式追加補正科目適合合格者との比較(11号証-1,2)において,労働者災害補償保険法を2点追加補正科目に適用しない決定は社会通念からみて合理的にふさわしいかどうか,委員会の裁量の範囲は相対的平等であるか,どうかも問われる必要がある。更に,「憲法第22条第1項」の視点から,公共の福祉」を明文で述べているのは、被告に個人の職業選択の自由が十分に保障されるべき秩序構築義務があることを述べたものと解する。合否判定を導く為の上位文章「合格基準の考え方」内の重要な文言を削除する行為がこのような秩序構築義務に反したと判断されるのか,言い換えると、「公共の福祉」に反して原告の職業選択の自由を侵害していると評価されることになるか,という点も司法審査の対象であると考える。

第9,厚生労働省作成の合格基準の考え方について,『1.合格基準点「基準点設定の説明」・2.年度毎の補正「水準維持」,(1)総得点の補正➀,②,③「難易度調整」,(2)科目最低点の補正➀,②「難易度調整」』4号証)がある。マークシート方式の相対評価の資格試験において,当事者(受験者と委員会メンバー)が合格基準を明確に理解しているならば合否判定に疑問は起こらない。受験案内で,なぜ明確にしていないのか,理由があればそれを含め司法から厚生労働省に対して問いただして頂きたい。

第10,            社労士資格試験は毎年4万人以上が,年齢にかかわらず社労士業を目指して,受験をする人気の国家資格試験である。このような資格試験において,時代の変化・要請等へ対応する為に合格基準の見直し(甲14号証)を行うので有れば、受験者がその合格基準を受験申込時,明確に認識できるものでなければならない。社労士試験より合格率の振幅巾の少ない「薬剤師国家試験」(平成27年9月30日発表)で,数年かけて事前の合格基準見直しが行われている。「規制行政に関する調査結果に基づく勧告-資格制度等-(平成12年9月総務庁)」においても,資格制度についての見直しの基準・視点等に基づき,各省庁は資格制度について自主的な見直しを行うこととされ,①資格審査事務の適切な実施,公平性・透明性の確保及び受験者の負担軽減,②資格者に求められる知識・技能等に対する評価の内容・レベルを明確にし,その透明化を図り,客観性を確保するため,試験問題の事後公表及び合否基準の公表の推進が求められている。原告は平成27年度委員会の合否判定により,不合格処分された1,200人前後(過去最低合格率換算)の存在に大きな疑問を持っています。委員会が下した平成27年度の合格基準は「法にてらして適正」であるか,司法に判断して頂きたく訴状を提出します。

 

   証拠方法

 

号証  平成27年度試験案内(被告作成)         2部

号証  不合格通知書(被告作成)             1部

号証  合否判定委員会要領被告作成)          2部

甲4号証  第43回(平成23年度)合格基準の考え方     2部

被告作成) 

甲5号証  第40回(平成20年度)合格基準被告作成)   2部

甲6号証  第42回(平成22年度)合格基準被告作成)   3部

甲7号証  第45回(平成25年度)合格基準の説明被告作成)1部

甲8号証  第47回(平成27年度)合否判定資料被告作成) 3部

甲9号証  試験センターの回答書試験センター作成)     1部

10号証 過去15年間の合格率・合格基準の推移       2部

原告作成資料と被告作成資料

11号証 過去の選択式追加補正適用比較表         6部

原告作成資料2部と被告作成資料4部

12号証 基準見直しの意見書原告作成)          2部

13号証 内容証明原告作成)               2部

甲14号証 平成26・27年度合格基準の考え方 被告作成) 2部

 

付属書類

 

訴状副本         1通

甲各号証の写し      各1通

( 以 上 )

 


①被告答弁書(大阪)_0001_0001

①被告答弁書(大阪)_0002_0001

①被告答弁書(大阪)_0003_0001

②被告 準備書面1(大阪地裁)_0001_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0002_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0003_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0004_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0005_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0006_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0007_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0008_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0009_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0010_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0011_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0012_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0013_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0014_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0015_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0016_0001②被告 準備書面1(大阪地裁)_0017_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0018_0001





②被告 準備書面1証拠証明書(大阪地裁)_0020_0001

②被告 準備書面1(大阪地裁)_0021_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0022_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0023_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0024_0001
②被告 準備書面1(大阪地裁)_0025_0001



平成28年(行ウ)第24号 社会保険労務士試験不合格取消等請求事件

原告 ●● ●●

被告 国(処分行政庁 厚生労働大臣)

 

原告第1準備書面

 

平成28年7月5日

 

大阪地方裁判所 第7民事部合議4イ係 御中

 原告 ●● ●●  

 

 

 



 

第1 本件の訴え「請求の趣旨第2項」について­――――――――――3

(1)申請型義務付けの訴えであること・・・・・・・・・・・・・・3

(2) 本件訴えは訴訟要件を満たし適法であること・・・・・・・・・4

第2 過去の合格基準の検証―――――――――――――――――――5

(1)合格基準を決定した過去の判断過程・・・・・・・・・・・・・5

(2)平成23年度のみとする被告の主張には理由がない・・・・・・7

(3)「追加補正」し合格率を一定の範囲に収めてきた事実・・・・・8

第3 平成27年度の合格基準の検証―――――――――――――――9

(1) 平成27年度の判断過程は明らかに矛盾している・・・・・・10

(2) 厚労大臣(委員会)の裁量は全くの自由裁量ではない・・・・11

(3) 「合格基準の考え方」を削除する行政行為について・・・・・12

第4 合格基準決定過程に瑕疵の存在――――――――――――――13

(1)明らかな「社会保険労務士試験合否判定委員会要領」違反・・13

(2)合否判定手続きに重大なかつ明白な瑕疵がある・・・・・・・14

(3)連合会の試験センターが合格基準の決定に関与している・・・15

第5,合格基準決定過程に他事考慮が存在する――――――――――16

(1)「追加補正科目を複数出したくない」事実・・・・・・・・・16

(2)起案用紙を作成した両名による「合格者数の絞り込み」・・・17

(3)比例原則かつ平等原則違反・・・・・・・・・・・・・・・・17

第6 原告の主張―――――――――――――――――――――――18

(1) 一定の合格率に収めてきた事実・・・・・・・・・・・・・・18

(2) 「合格基準の考え方」を削除する行政裁量の妥当性について・18

(3) 被告の立証責任について・・・・・・・・・・・・・・・・・19

(4) 公文管理法第4条違反の疑い・・・・・・・・・・・・・・・19

第7 被告の違法行為の背景(まとめ)―――――――――――――20

第8 総括と結論―――――――――――――――――――――――21

原告は,多数の一般受験者が疑義を抱いた平成27年度社労士試験結果(甲20号証-1)について,被告(厚労省)に対して「意見書」(甲12号証),「内容証明」(甲13号証),及び訴状の提出を行い,合格基準について納得が得られる合理的な理由・背景があれば,「一般受験者の合格率2.5%」の結果を受け入れ,次に進む準備があった。しかしながら,被告からの回答は,被告第1準備書面15ページの「厚労大臣(委員会)は,合格基準を各受験者の成績に当てはめ,合格者を決定した。」の一言だけで,過去に類のない合格率2.5%の適正かつ合理的な理由説明は何ら示されていない。

7人の合議制である社労士合否判定委員会において,適正な合格基準を決定したとする跡付けを被告第1準備書面,各乙号証から確認することができない。

平成27年度の合格基準が,『「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験水準を一定に保つ」という観点から決定する。』とする被告の主張に明らかな矛盾があり,合格基準決定の背景に「合否判定手続きに重大かつ明白な瑕疵があること」「判断の過程において他事考慮がなされたこと」「裁量権の逸脱・濫用行為であること」について述べた上,原告の主張を明らかにする。

 

第1,          本件の訴え「請求の趣旨第2項」について­

(1)申請型義務付けの訴えであること

請求の趣旨第2項に係る訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えであり,非申請型の義務付け訴訟とは異なる。原告は,社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)第10条第1項及び10条の2の規定による社会保険労務士試験受験要綱(乙第4号証)に基づき受験申請を行っている。     

被告による事前の審査基準の公表,事後の調整審議・判断過程の説明が一切行われなかったにも関わらず,従来の審査基準の方法と異なる方法で合格基準が決定され,その結果,原告は不合格処分とされた。従来の審査基準の設定方法では,選択式試験の労働者災害補償保険法は3点から2点に追加補正されるべきはずの要件を満たしているにも関わらず,被告は2点に追加補正を行っていない。

従って,訴状の請求の趣旨第2項による訴えは,合格基準の設定手続きの瑕疵を理由として原告の拒否処分は違法性を唱え,被告に改めて合格基準の設定を求める申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項2号)である。

(2)本件訴えは訴訟要件を満たし適法であること

社会保険労務士法第9条に基づき被告が実施した社会保険労務士試験の合否判定処分に違法な合否判定手続きが存在し,それに起因して原告は,社会保険労務士法第3条第1号(社会保険労務士試験に合格した者)に規定される法的地位を違法に侵害された。被告は,適正かつ合理的な「審査基準の設定,調整審議,判断の過程」に基づき,「適正な合格基準」を決定する義務がある。

その合否判定手続きに重大な瑕疵が存在しており,原告の社会保険労務士法第3条に規定される権利を侵害された。原告は,被告の裁量権の公正な確保,及び合否判定手続きの違法性について主張している。

原告の権利義務に対して直接具体的な影響を及ぼすものであり,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」であることは明らかである。

被告は,「社労士試験の合格基準の決定は,飽くまで,社労士試験の合否判定の前提となる基準の決定にすぎない。」と処分性がないと主張するが,合否判定は合格基準の決定に基づき後続して行われる。例えば,先行行為である農地買収計画と後行行為である農地買収処分のように,先行行為である合格基準の決定と後行行為である合否判定は,互いに結合して一つの効果の実現を目指し,これを完成するものである。このように手段・目的の関係にあり,先行行為である合格基準の決定手続きに違法性がある場合は,先行行為の違法性が後行行為である合否判定に承継される。従って,後行行為である不合格処分に対する取消の訴えにおいて,先行行為の違法性を主張することができ,社労士試験の合格基準の決定には当然に処分性がある。また,社会保険労務士試験合否判定委員会要領(甲3号証-1)「3 委員会の職務」においても,「適正な合格基準を決定し,その基準に基づき合格者を決定する。」と規定されている。

よって,本件義務付けの訴えは,訴訟要件を満たし,適法である。

 

第2,          過去の合格基準の検証

(1)合格基準を決定した過去の判断過程

「規制行政に関する調査結果に基づく勧告-資格制度等-(平成12年9月総務庁)」を受け,平成12年度の合格基準をベースに,『「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験水準を一定に保つ」という観点から決定する。』とする趣旨において,平成13年度の厚労大臣(委員会)が作成した「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」(以下,「合格基準の考え方」という)に基づき,当該年度に選択式試験科目に難易度が生じた為,追加補正科目に適用した理由を下記のような詳細な判断過程を説明し,当該年度の厚労大臣(委員会)は裁量にて合格基準を決定している。

(イ),平成18年度(甲15号証-2)における追加補正科目に適用した「労基法及び安衛法」の説明文『「①平均点が2.48点と低く,引下げを行わず合格基準点を3点とすることは,各科目について必要最低限の知識水準を求める科目最低点の趣旨にそぐわないこと。(なお,基準点の引き下げを行う「雇用保険法」の平均点は2.51点と「労基法及び安衛法」より高い。)」「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は15.8%(昨年22.6%,引き下げ後18.9%)となり,本来,基礎的知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。」』の判断。

(ロ),平成20年度(甲5号証-2)における『「①引き下げ補正した基準点(1点)未満の受験生の占める割合が3割以上という要件には該当しないものの,平均点が1.6点と低く,「健康保険法の基準点を1点引き下げた平成16年の平均点(1.5点)と比べても同水準であること」,「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は14.4%(引き下げ後18.7%,昨年21.1%)となり,本来,基礎的な知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること」』の判断。

(ハ),平成22年度(甲6号証-2,3)における『なお,「健康保険法」及び「国民年金法」は,引き下げ補正した基準点(健保2点,国保1点)未満の受験者の占める割合が3割以上という要件に該当しないが,今年は社会保険系の科目が全般的に難化しており,特に「国民年金法」は全科目を通じ過去最低の平均点となる1.3点(それ以前はともに「健康保険法」のH16年度1.5,H20年度1.6点であり,1点補正)であること,「健康保険法」は対前年比で平均点が-1点となっているが3点→2点を行っている他の科目の同対前年比(「社会保険に関する一般常識」-0.6点「厚生年金保険法」-0.7点)に比べても難化していることから,引き下げを実施することとする。』の判断。

(ニ),平成23年度(甲4号証-2)においては,当時の厚労大臣(委員会)は『(2)科目最低点の補正②「上記①の補正を行ったうえで,選択式及び択一式のそれぞれについて,基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)である科目が複数科目存在し,かつ,総得点では以上でありながら,いずれかの科目について合格基準点(上記①により補正したものを含む)に達しないことにより不合格となる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)には,試験の水準維持を考慮し,当該複数科目について原則として合格基準の引き下げを行う。」(甲4号証-2)』(以下,科目最低点の補正基準②という)と審査補正基準を明記し,「労基法及び安衛法」,「労災保険法」,「国民年金法」の3科目を追加補正科目に適用した判断。

上記,(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の調整審議,判断過程は「乙第5号証6ページ」の『2,年度毎の補正「上記基準点については,各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから,試験の水準を一定に保つため,各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。」』(以下,「2,年度毎の補正」という)を審査補正基準として,調整審議,判断過程を経て,合格基準を決定している。

(2)平成23年度のみとする被告の主張には理由がない

被告第1準備書面17ページ6行目「平成23年度の社労士試験のみであり,その他の年度における社労士試験においては,そもそも上記の補正基準は設定されていないのであるから,本件社労士試験に限って上記の補正基準を削除したとの原告の主張は前提を誤っている。」とする被告の主張には理由がない。何故ならば,平成18年度,平成20年度,平成22年度の厚労大臣(委員会)は「選択式3点」と「2,年度毎の補正」を審査補正基準として,平成23年度の「科目最低点の補正基準②」の審査補正基準の記述が無くても(甲16号証),調整審議の判断過程を経て,行政裁量にて選択式追加補正科目を決定している。

過去の合格基準から,(イ)(ロ)(ハ)の「調整審議,判断過程」を(ニ)の「科目最低点の補正基準②」として,平成23年度は『「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験水準を一定に保つ」という観点から,審査基準「合格基準の考え方」に明記し,(イ)(ロ)(ハ)のような「詳細に調整審議,判断過程」の理由を記載していない(甲21号証)。 

平成18年度,平成20年度,平成22年度,平成23年度の選択式科目最低点の「追加補正適用の考え方」は何ら変わっていない。

被告の主張の裏側に「合否判定手続きの瑕疵」「他事考慮(目的違反,動機違反)」が存在する。「平成23年度のみ」とする主張の背景を相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要がある。被告が主張,立証を尽くさない場合には,平成27年度の合否判定手続きに違法性(裁量権の逸脱・濫用)が推認される。

(3)「追加補正」し合格率を一定の範囲に収めてきた事実

厚労大臣(委員会)の裁量にて,合格基準を決定するにしても,過去の選択式合格基準から難易度が高い総得点基準点21点から23点の年度は,当時の厚労大臣(委員会)は「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験水準を一定に保つ」という観点から選択式科目追加補正の調整を行っている。各年度の試験問題の難易度に応じた選択式科目追加補正の調整を行い,追加補正に至った理由を明記し,当該年度の厚労大臣(委員会)は行政裁量にて合格率を一定の範囲に収めてきた事実は以下の通りである。(甲11号証-1,甲22号証)。

『2点追加補正年度』

平成18年度「合格基準点:22点以上,合格率:8.53%,追加補正科目:労基法及び安衛法(合格基準点以上の受験者が占める割合:開示資料が無いため不明),理由:平均点が低い等」(甲15号証)

平成22年度「合格基準点:23点以上,合格率:8.64%,追加補正科目:健康保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:71.3%),理由:社会保険科目の難化」(甲6号証)

平成23年度「合格基準点:23点以上,合格率:7.22%,追加補正科目:労基法及び安衛法(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.6%)・労災保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:72.6%)・国民年金法(合格基準点以上の受験者が占める割合:81.3%),理由:不合格者となる者の割合が相当程度の割合になること等」(甲4号証―2)

『1点追加補正年度』

平成20年度「合格基準点:25点以上,合格率:7.51%,追加補正科目:健康保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:84.2%),理由:平成16年の健康保険法との比較等」(甲5号証)

平成22年度「合格基準点:23点以上,合格率:8.64%,追加補正科目:国民年金法(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.4%),理由:社会保険科目の難化等」(甲6号証)

平成25年度「合格基準点:21点以上,合格率:5.41%,追加補正科目:社会保険一般(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.5%),理由:平成22年の国民年金法との比較」(甲7号証)

以上の事実から,被告第1準備書面の第2の2(2),(4)の「合格率を7ないし9パーセントに保つために合格基準点を補正してきたとの点は否認する」との被告の主張は失当している。何故ならば,追加補正年度合格率は平均7.41%で有り(甲11号証-1),各年度,選択式試験の難易度に応じ追加補正科目に適用することで,合格率を維持してきたことは明白である(甲22号証)。

更に,平成21年度の合格基準について(甲17号証)の「合格率はともに7.6%となり,例年ベースを維持していること」との記載,平成27年度の合格基準の考え方(甲14号証-2)の「③各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより,例年の合格率と比べて高くなるとき(概ね10%を目安)は、試験水準を考慮して基準点を1点足し上げる。」は,平成26年度・25年度・24年度・23年度・22年度・21年度と開示された合格基準の考え方のすべてに同様の記載があり,合格率を考慮して合格基準の再設定を行うことを被告自身が明記している。「否認」する背景を相当の根拠,資料に基づき,立証を尽くすことができなければ,他事考慮(目的違反、動機違反)に繋がり,合否判定手続きの違法性(裁量権の逸脱・濫用)が推認される。「合格率」は審理で一番に明らかにならなければならない点である。何故ならば,再挑戦を試みる受験者,新たに資格取得を目指す国民が次に進む人生の指標となるからである。

 

第3,          平成27年度の合格基準の検証

(1)平成27年度の判断過程は明らかに矛盾している

被告第1準備書面14ページの第4事実経過等の4の(1)イ『なお,選択式試験及び択一式試験の科目最低点の補正については,原則として,「各科目の合格基準点(選択式3点,択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は,合格基準点を引き下げ補正する。」としつつ,試験の水準維持の観点から,①「引き下げ補正した合格基準点以上の受験者が占める割合が7割以上の場合」又は②「引き下げ補正した合格基準点が,選択式で0点、択一式で2点以下となる場合」は,合格基準点の引き下げ補正は行わないこととした(乙第5号証7ページ)。』(以下,科目最低点の補正基準①という)内の試験の水準維持の観点から,平成27年の選択式試験の労働者災害補償保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:71.8%)を2点に適用しなかったとしている。

「平成12年度以降の社労士試験において,試験の水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して合格基準点の補正を行っていたこと」(被告第1準備書面7ページ7行目)と被告が認める上で,当時の厚労大臣(委員会)の裁量による「(1)合格基準を決定した過去の判断過程,(3)合格率を一定に収めてきた事実」(原告第1準備書面5ページ以降参照)判断過程と平成27年度の厚労大臣(委員会)の行政裁量による平成27年度の判断過程は明らかに矛盾している。

平成27年度の労働者災害補償保険法は「合格基準点(3点)以上の受験者の占める割合:37.1%・平均点:2.2点」の数値が示すように補正科目に適用された『社会保険に関する一般常識「合格基準点(3点)以上の受験者の占める割合:42.0%・平均点:2.3点,厚生年金保険法「合格基準点(3点)以上の受験者の占める割合:43.5%・平均点:2.3点」』と比較して,難易度が明らかに高く(占める割合:5~6ポイント・平均点:-0.1点),2点補正科目に適用の要件を満たしている。(乙第5号証8ページ,甲22号証)

被告第1準備書面17ページの上部において,「試験の水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うこととしたものである(乙第5号証6ページ)」と主張しているにも関わらず,「(1)合格基準を決定した過去の判断過程,(3)合格率を一定に収めてきた事実」(原告第1準備書面5ページ以降参照)と平成27年度試験結果に照らし検証することを行っていない(甲22号証)。「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験の水準を一定に保つ」為の調整審議,判断過程に明らかな「他事考慮」が存在する。被告の釈明を求める。

(2)厚労大臣(委員会)の裁量は全くの自由裁量ではない

被告は被告第1準備書面12ページ14行目からにおいて,『法9条は,社労士試験の目的について,「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力を有するかどうかを判定する」と規定するのみで,具体的な合格基準を規定していないから,合格基準の決定は厚労大臣の専門的かつ技術的な裁量に委ねられているものと解される。』(被告第1準備書面12ページ中段)と主張している。厚労大臣(委員会)の裁量に委ねられているにしても,全くの自由裁量ではなく,厚労大臣(委員会)は,恣意的な合格基準設定手続きが行われることのないよう,過去の厚労大臣(委員会)が裁量にて決定した合格基準との整合性を維持するための適法,適正かつ合理的な方法で合格者の合否判定手続きを実施する義務を負う。

社労士法第9条に定められていないことを理由に,「厚労大臣の裁量に委ねられている」との被告の主張は,各年度「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を判定するために「試験水準を一定に保つ」観点から,各年度,難易度に応じて調整審議,判断の過程を経て補正を行ってきたにも関わらず,社会通念の範囲を超え,比例原則・平等原則に違反してまで委ねられていることを含むものではない。更に,社労士試験の科目最低点の補正は,著しく専門的,技術的性質を有するものではなく,各科目合計総得点の平均点及び各科目の得点分布から,調整審議,判断の過程を経て,決定されており,数値的にみて過去の合格基準との「整合性・公平性・平等性・継続性」がより強く求められるべきである。

(3)「合格基準の考え方」を削除する行政行為について

「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を判定するために「試験水準を一定に保つ」観点から,被告自身が作成した「合格基準の考え方」(甲4,14,16,18号証)を各年度検証すると当時の厚労大臣(委員会)は下記の(ヘ)(ト)を裁量にて明記し,(ホ)(ヘ)(ト)を後々の厚労大臣(委員会)は裁量にて削除している。

(ホ),平成13年度以降,選択式試験の合格基準点の各科目設定理由「※各科目3点以上が5割以上いたため」(甲16号証,甲18号証)の基準を根幹に選択式の科目補正を行ってきた事実がある。平成26年度に削除(甲14号証)。

(ヘ),平成23年度の厚労大臣(委員会)は「合格基準の考え方」に「科目最低点の補正基準②」(甲4号証-2)を明記し,国民に分かりやすい簡易なものとしている。(明記理由は,原告第1準備書面7ページ『過去の合格基準からして,~何ら変わっていない』を参照)平成24年度に削除(甲18号証)。

(ト),平成19年度の厚労大臣(委員会)は「試験水準の維持」の観点から,合格率が10%以上になる事を避ける為,択一式総得点の補正を行った理由を細かく説明する「平成12年~平成19年までの表」を明記し,択一式試験の1点底上げを行っている。(甲16号証,甲18号証)この明記理由は社労士試験の「試験の水準を一定に保つ」目的で,合格率を10.62%に収めている。平成26年度に削除(甲14号証)。

 明記時の厚労大臣(委員会)は,その後の厚労大臣(委員会)が「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を判定するために「試験水準を一定に保つ」趣旨において,平成27年度のような「調整審議,判断過程」に疑義が起こらないように,「2,年度毎の補正」に(へ)(ト)を自由裁量にて明記している。しかし,削除時の厚労大臣(委員会)の自由裁量とはいえ,オールマークシート方式の相対評価の国家資格試験であること,後々の厚労大臣(7人の委員)が変わること,並びに試験問題に難易度が生じることを考慮すると,削除する行政裁量には大きな疑問が残る。平成27年度のような選択式試験に難易度が生じたときの為に,「2,年度毎の補正」の(2)科目最低点の補正,「科目最低点の補正基準①」にプラスして,「科目最低点の補正基準②」を明記したはずである。   

(ホ)については,平成26年度の厚労大臣(委員会)が自由裁量にて,削除できるとは決して思わない。何故ならば,平成13年度の厚労大臣(委員会)が合格基準点を設定した「根幹の文言」であり,社労士試験の特徴でもある選択式各科目3点以上(60%以上)の理由設定となる重要な文言である。平成13年度以降,「2,年度毎の補正」を行う上での「重要な文言」である。

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第4,合格基準決定過程に瑕疵の存在

(1)明らかな「社会保険労務士試験合否判定委員会要領」違反

乙第5号証11,12ページの「社会保険労務士試験合否判定委員会要領」(以下,委員会要領という)に,2,構成「座長は互選により選出する。」3,委員会の職務「適正な合格基準を決定し,その基準に基づき合格者を決定する。」4,開催「合格発表日のおおむね1ヵ月前に委員会を開催する。」と規定されている。  

被告第1準備書面と乙第5号証(1,2,17,18ページ)から「平成27年度合格基準の合否判定手続きが適法,適正かつ合理的に実施された跡付け」を確認できない。何故ならば,「座長の選出過程」,「委員会の開催日」,「調整審議の内容」,「判断の過程」が記載されていない。

被告第1準備書面14ページの「この決定は,持ち回り決議の方法によっておこなわれたものである。」とする被告の主張は,「委員会要領」に明らかに違反している。

乙第5号証1ページの末尾に(伺い)「別紙案のとおり決定してよろしいかお伺いする。」と乙第5号証17ページの末尾に「別紙案のとおり決定してよろしいかお伺いします。」とあるが,添付された案が一案しか存在しないことから,二人の起案者,横田氏と津谷氏が合格基準を決定したのか。または,別の機関で合格基準を決定したのか。合格基準に整合性が無いため,両名による「他事考慮」が必ずある。 

記載内容から,決定権者でない両名が合格基準を決めたのであれば,委員会は合格基準に関する「決定委員会」でなく「諮問委員会」であり,両名は構成委員ではない,この点も明らかに「委員会要領」違反である。

被告が被告第1準備書面12ページ(3)社労士試験合格基準の決定について『「合格基準の決定は,厚労大臣の専門的かつ技術的な裁量に委ねられているものと解される。」,「社労士試験の合格基準及び合格者を決定するため,厚生労働省の職員による社会保険労務士試験合否判定委員会を設置している。」』と主張する背景は,「委員会要領」の「3委員会の職務」を7人の委員が適正かつ合理的に実施することを前提としている。しかし,「委員会要領」の規定の通り合否判定手続きを実施していない。

以上の事から,「委員会要領」は存在するだけで,全く機能していない。「合否判定手続きの瑕疵」「他事考慮の存在」「社労士法第10条2項に違反」が疑いから,確信に変わる被告第1準備書面の内容である。

(2)       合否判定手続きに重大かつ明白な瑕疵がある

持ち回りの決議の方法では十分な調整審議を行うこと,合理的な判断の過程を経ることが不可能であり,合格基準作成に関与していた起案用紙に記載のある起案者,両名による試験の成績以外の他事考慮(被告には失礼ではあるが,例えば「司法試験・司法書士試験以下の合格率にする。」)があったことが推認される。 

単に「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」(乙第5号証6,7ページ)に基づき合格基準を決定しただけでは,十分な調整審議,合理的な判断の過程を経たことにはならない。一般的,社会常識の視点から考えて過去の合格基準に照らして整合性がなく,適正な行政裁量の巾でないが為に,必ず,「合格率2.58%及び合格者数1,051人」に思い留まった内心(「追加補正科目を複数出したくない」「合格者数の絞り込み」)がある。

(3)連合会の試験センターが合格基準の決定に関与している

被告は,被告第1準備書面8ページの3「第3について」の(4)第4文(「試験事務を」から「している。」まで)について「認める」とするが,合格基準の決定に関する事務においても全国社会保険労務士会連合会内の試験センターが行っている。被告第1準備書面の14ページ第4事実経過等の4の「ア」において,「厚労大臣(委員会)は,平成27年10月19日,本件社労士試験の採点結果及び得点分布を踏まえ(乙第5号証8ないし10ページ)」から「それぞれ補正し,最終的な合格基準を決定した。」とあるが,過去の「適正な合格基準」と整合性のとれた合理的な判断の過程を示す具体的な議事録等の各乙証拠資料(委員会の開催日・開催場所・出席委員名簿・座長・合理的な合格基準決定過程を含む。)はなかった。従って,公文書管理法第4条違反の疑いがある。

また,被告が使用したとする資料(乙第5号証8,9,10ページ)のみでは,「乙第5号証4,5ページ」を作成することは明らかに不可能であるという点において矛盾が生じている。何故ならば,「乙第5号証4,5ページ」に記載のある具体的な合格者数と合格率は,被告が使用したとする資料(乙第5号証8,9,10ページ)のみでは,算出ができない。また,平成20年度の合格基準について(甲5号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は14.4%(引き下げ後18.7%、昨年21.%)となり」と平成18年度(甲15号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は15.8%(昨年22.6%,引き下げ後18.9%)となり」の詳細な検討を行うこともできない。なお,これらの資料(乙第5号証8,9,10ページ)以外のデータは連合会でしか保有していないことは情報公開審査会で明らかになっている。「別紙の1の3に掲げる文書については,連合会試験センターが試験事務としてデータの集計・処理を行っているので,厚生労働省は保有していない(甲23号証,答申書8頁参照)」

従って,被告第1準備書面の第4事実経過等の「4 本件社労士試験における合格基準の決定等 (1)合格基準の決定 」記載の被告の主張は成立しない。

 

第5,合格基準決定過程に他事考慮が存在する

(1)「追加補正科目を複数出したくない」事実

平成27年度の労働者災害補償保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:71.8%)が,審査基準の『①「引き下げ補正した合格基準点以上の受験者が占める割合が7割以上の場合」(被告第1準備書面15ページ上部)』を理由に追加補正科目に適用しないとする被告の主張は,追加補正科目適用年度『「平成18年度の労基法及び安衛法(合格基準点以上の受験者が占める割合:開示資料が無いため不明)」,「平成20年度の健康保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:84.2%)」,「平成22年度の健康保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:71.3%),国民年金法(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.4%)」,「平成23年度の労基法及び安衛法(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.6%)・労災保険法(合格基準点以上の受験者が占める割合:72.6%)・国民年金法(合格基準点以上の受験者が占める割合:81.3%)」,「平成25年度の社会保険一般(合格基準点以上の受験者が占める割合:75.5%)」』との整合性がとれず明らかな「追加補正科目を複数出したくないとする他事考慮(目的違反、動機違反)である。

被告は『「合格基準の決定は厚労大臣の専門的かつ技術的な裁量に委ねられている」,「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,「試験水準を一定に保つ」』と主張し,「合格基準の考え方」,「2,年度毎の補正」(甲14号証)に基づき,合格基準を決定したとしている。 

「選択式・択一式度数表(甲20号証)」を検証すると,各科目補正前の基準点内,一般合格者数の比率は平成23年度から平成26年度までは,14.0%~14.2%内に収まっているが,平成27年度は9.3%であり,科目補正前の一般合格者数が約2,000人前後(比率で5%弱)明らかに少ない。

平成27年度の選択式試験(甲8号証-1)は平成26年度(甲19号証-1)より,数値が示す通り難化している。科目補正後の「合格者数:平成26年度比3,046人減,合格率:平成26年度比6.8%減」(甲20号証-1)の数値に至った,「難易度の考え方」,「具体的な審査基準」,「調整審議」,「判断の過程」を被告は詳細に説明する責任がある。

(2)起案用紙を作成した両名による「合格者数の絞り込み」

合格基準作成に関与していた起案用紙に記載のある起案者,両名(または,別の機関)による試験の成績以外の他事考慮(合格者を1,000人前後に抑える。)があったことが明白である。7人の合議制の委員会において,審査基準,調整審議,判断過程を経て,「適正な合格基準を決定し」を委員会要領にて,規定されているにも関わらず,一人又は二人が合格基準を決定している。委員会要領に規定されていない「持ち回り審議」の方法では,「適正な合格基準」導くことは明らかにできない。被告の釈明を求める。

(3)比例原則かつ平等原則違反

被告の他事考慮(目的違反、動機違反)が明らかに存ずる。被告は「合格率を7ないし9パーセントに保つために合格基準点を補正してきたとの点は否認する」と「平成23年度の社労士試験のみであり,その他の年度における社労士試験においては,そもそも上記の補正基準は設定されていないのであるから,本件社労士試験に限って上記の補正基準を削除したとの原告の主張は前提を誤っている。」とする主張理由を相当の根拠,資料に基づいて,主張,立証するべきである。主張,立証を尽くさなければ「追加補正科目を複数出したくない」「合格者数を絞り込む」とする他事考慮(目的違反、動機違反),比例原則かつ平等原則違反は,更に深まる。過去との整合性・公平性・平等性・継続性を著しく欠き,比例原則かつ平等原則に違反した厚労大臣(委員会)による行政事件訴訟法第30条に定める裁量権の逸脱,濫用行為にあたり,訴状の第4から第8について,訴状の通りすべて争う。

 

第6,          原告の主張

(1)一定の合格率に収めてきた事実

「規制行政に関する調査結果に基づく勧告-資格制度等-(平成12年9月総務庁)」に従い,平成12年度の合格基準をベースに,被告が『「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,試験水準を一定に保つという観点から決定する(被告第1準備書面17ページ5行目)』として作成した「合格基準の考え方」の「2,年度毎の補正」を審査基準として,選択式試験に難易度が生じた場合,当時の厚労大臣(委員会)は裁量にて,「科目補正」・「科目追加補正」を行い,合格基準を決め,その結果として,合格者数(合格率)が決まってきた事実がある(甲11号証-1,甲22号証)。

(2)       「合格基準の考え方」を削除する行政裁量の妥当性について

「国民に分かりやすい簡易なものとすることが望ましいこと」を趣旨に記載された「合格基準の考え方」の内容を(甲4,16,18号証)と平成27年度仕様(乙第5号証6,7ページ)を比較すると被告自身が『「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力」を有するかどうかを適切に判定するために,試験水準を一定に保つという観点から決定する(被告第1準備書面17ページ5行目)』とする審査基準を削除している。削除行為の明確な目的は判明しないが,平成27年度の合格基準は,削除された「合格基準の考え方」(乙第5号証6,7ページ)に基づき決定されている。「厚労大臣(委員会)の専門的かつ技術的な裁量に委ねられている」と被告が主張する中,各年度,試験の難易度,厚労大臣(7人の委員)が変わることを考慮すると,削除行為の行政裁量の妥当性,及び,平成27年度の厚労大臣(委員会)による調査審議,判断過程は適正かつ合理的であったかどうかは必ず問われなければならない。

(3)被告の立証責任について

「合格基準の考え方」が国民に全面公開されていない以上,被告は「より国民に解かりやすく,並びに,適正かつ合理的な合否判定手続き」に基づき,合否判定手続きを行う義務がある。原告は訴状を被告作成の開示資料を基に作成しており,平成27年度の合格基準の合否判定手続きに対して,違法性のある事を主張している。仮に,平成27年度の合否判定手続きが適法,適正かつ合理的に行われたので有れば,当該合否判定手続きに関する資料はすべて被告の側が保持していることなどの点を考慮すると,被告の側において,国民(受験者)に対して,まずその依拠した具体的審査基準並びに調整審議及び判断の過程等,被告の合否判定手続きに違法性かつ不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき主張,立証する必要がある。被告が主張,立証を尽くさない場合には,被告がした平成27年度の合否判定手続きに違法性があり,かつ合理的でないことが事実上推認されるものというべきである。

(4)「公文書管理法第4条」違反の疑い

公文書管理法第4条「行政文書の作成」(行政文書ガイドライン第3)には,「文書主義の原則・経緯に関する文書の作成義務」及び「作成すべき文書例示(法4条2号)」が規定されている。平成27年度合格基準の合否判定手続きが適法,適正かつ合理的に実施された跡付けがあるのかは,被告第1準備書面,証拠方法(各乙号証)と訴状の証拠方法(被告作成各甲号証)から検証することができない。跡付け資料の不存在,或いは被告第1準備書面の厚労大臣(委員会)が使用されたとする(乙第5号証8,9,10ページ),並びに厚労大臣(委員会)で策定された合格基準(乙第5号証3,4,5ページ)以外に使用された他の資料の隠蔽,破棄が有れば,委員会の不作為,或いは委員会の行為は,公文書管理法第4条違反にあたる。

また,厚生労働省行政文書管理規則(文書主義の原則)第9条にも「厚生労働省の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。」と規定されている。

 

第7,被告の違法行為の背景(まとめ)

(1)合否判定基準決定手続きには、重大かつ明白な瑕疵があり、委員会要領(甲3号証)違反である。原告第1準備書面13ページ明らかな「社会保険労務士試験合否判定委員会要領」違反で示した通り,委員会は合格基準に関する「決定委員会」でなく「諮問委員会」であり,委員会要領は存在するだけで,全く機能していない。合否判定委員(甲3号証の2)ではない横田氏と津谷氏が事実上の合格基準決定権者である(乙第5号証1,2,17,18ページ)。

(2)連合会が合格決定の事務に関与していることは,社労士法10条の2違反である。被告が使用したとする資料(乙第5号証8ないし10ページ)のみでは,乙第5号証4,5ページに記載のある具体的な合格者数と合格率は,外見上明らかに算出ができないことから,社労士試験集計データを保管管理する連合会が,横田氏と津谷氏と供に合格の決定に関する事務に関与している。

(3)合格基準決定の経緯に関する文書の未作成は,公文書管理法4条違反である。被告第1準備書面と乙第5号証(1,2,17,18ページ)から「座長の選出過程」,「委員会の開催日」,「調整審議の内容」,「判断の過程」が記載されていないため,「平成27年度合格基準の合否判定手続きが適法,適正かつ合理的に実施された跡付け」を確認できない。

4)平成27年度社労士試験合否判定は,行政事件訴訟法30条「裁量権の逸脱」,比例原則・平等原則違反である。論述試験でもないオールマークシート方式の試験において,平成27年度社労士試験合格基準と合格結果は,過去の合格基準と合格結果とを比較して,数値的に明らかに試験水準の維持がなされていない。過去15年の長きに渡り,一定の合格率に収まってきた事実がある中で,過去の合格基準との整合性がない試験結果は裁量権の逸脱(踰越)にあたる。過去の追加補正科目適合合格者と比較して,外形上客観的に見て明らかに不平等であり,憲法第14条「法の下の平等」違反である。

(5) 試験成績以外の他事考慮は,行政事件訴訟法30条「裁量権の濫用」違反である。過去の合格基準に照らして整合性がなく,適正な行政裁量の巾でないが為に,また「合格者数1,051人及び合格率2.58%」に至った合理的理由・背景が被告第1準備書面において一切示されていない。故に,合格者の絞り込みを行い「合格者数1,051人及び合格率2.58%」に思い留まった,被告の試験成績以外の他事考慮(内心)が必ずある。社労士法9条が定める「社労士となるのに必要な知識及び能力を有するかどうか」とは関係のない事柄が考慮され,憲法第22条1項「職業選択の自由」の侵害でもある。

 

第8,総括と結論

本件は,第7,被告の違法行為の背景」の通り厚労大臣(委員会)の比例原則,及び平等原則に違反した合否判定手続きによって,原告の法的地位が侵害されたことを主張するものである。被告自身が,訴訟に至る以前から被告第1準備書面まで「試験水準(合格水準)の維持」を一貫して主張しているが,「試験水準の維持」のための措置がなされていないことは,例年の合格者数と合格率との比較から極めて明確である。

このような数値に至った背景には,違法な合否判定手続きが存在する。つまり,合格者数,及び合格率が例年のおおよそ4分の1に激減したという結果は,具体的な合格基準の設定,適正な調整審議,合理的な判断の過程を経ておらず,「試験水準の維持」が適法,適正かつ合理的に行われなかった証拠の1つである。

社会保険労務士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力の有無の判断や社会保険労務士試験の運営の当否の判断については,国家資格試験という性質上試験実施機関の最終的な判断に委ねられているとして,厚労大臣(委員会)に合格基準の決定に関して一定の裁量権があるとはいえ,被告自身が「試験水準の維持」を主張する以上被告は自己の言動には拘束されるべきであり,単に資格審査上の問題であるとは言えず法律を適用して終局的に解決を図るべきである。 

被告の違法な合否判定手続きに起因する処分によって,原告は,社会保険労務士法第3条第1号(社会保険労務士試験に合格した者)に規定される法的地位を違法に侵害された。 

従って,被告は,原告を不合格とする処分を取り消し,選択式科目の労働者災害補償保険法の合格基準を3点から2点に適用すべきである。

 

  証拠方法

 

甲15号証 第39回(平成19年度)合格基準について       3部

甲16号証 社労士試験の合格基準の考え方について         2部

      (平成19,20,21,22年度)

甲17号証 第41回(平成21年度)社労士試験の合格基準について 4部

甲18号証 社労士試験の合格基準の考え方について         2部

(平成24,25年度)                          甲19号証 第46回(平成26年度)科目得点状況表        2部                           

甲20号証 センタク,タクイツ ドスウ ヒョウ          6部 

     (原告作成集計表1部,被告作成5部)

甲21号証 第43回(平成23年度)社労士試験の合格基準について 1部

甲22号証 平成27年度と他年度の科目補正(選択式)対比表    2部

      (開示資料を基に原告が作成)

甲23号証 情報公開審査会 答申書               15部

 

以上

平成28年(行ウ)第24号 社会保険労務士試験不合格取消等請求事件

原告 ●● ●●

被告 国(処分行政庁 厚生労働大臣)

 

原告第2準備書面

 

平成28年7月27日

 

大阪地方裁判所 第7民事部合議4イ係 御中

 

 原告 ●● ●●  

 

原告は,被告の平成28年7月5日付け文書提出命令申立てに対する意見書(以下「被告意見書」という)に対し,下記の通り弁論を準備する。

 なお,略語等は,本原告第2準備書面で新たに定めるもののほかは,原告第1準備書面,被告第1準備書面の例による。

 

 

第1,          文書提出命令申立書の背景(詳説)

過去の厚労大臣は行政裁量にて,選択式試験の難易度に応じ,「2,年度毎の補正(乙第5号証6頁)」を行う上で,「試験水準を一定に保つ」観点より,「(2)科目最低点の補正(乙第5号証7頁)」の審査基準で対応した年度(平成19年度・平成21年度・平成24年度・平成26年度)と同水準維持の観点から調整を行った年度(平成18年度・平成20年度・平成22年度・平成23年度・平成25年度)が事実として存在する「(原告第1準備書面5頁から9頁参照),(甲22号証)」。

過去の事実から,選択式試験の科目基準点3点(60%)以上を合格基準とした設定理由において,選択式試験問題の難易度の差から生じる試験年度間の不公正性及び受験生間の不平等な取扱いにならないように,合格基準の調整を適正かつ合理的に行い,年度間の公正性及び平等な取扱いが担保されてきた。

担保されてきた事実として,「合格基準の考え方(乙第5号証6・7頁)」の審査基準「③下記(2)の各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより,例年の合格率と比べ高くなるとき(概ね10%を目安)は,試験の水準維持を考慮し合格基準点を1点足し上げる。(乙第5号証7頁)」と過年度の合格率推移の事実(甲10号証-1)から,受験者(国民)が予見可能な合格率の下限は平成25年度の合格率5.41%前後である。

被告が『平成27年度選択式試験の難易度を「試験水準を一定に保つ」観点から調整しなかった』とする「難易度の考え方」(調整審議,判断過程)を相当の根拠,資料に基づき主張,立証すべきである。何故ならば,係る合否処分の原因となる事実と処分理由の背景を被告(国)はいまだに一切説明しておらず,過去の担保されてきた事実と整合性,公正性,平等性がとれない。

更に,合格基準が国民に公開されていないマークシート方式の相対評価の国家資格試験において,各年度の受験者が受験申込の段階で,一定の合格率(過去の事実)を指標に受験に臨むのは至極当然のことである。社会通念上著しく妥当性を欠く平成27年度の合格率2.58%は,重要な事実の基礎を欠き,行政庁の著しく不公正な合否判定手続きに起因しており,信義則違反である。

原告第1準備書面13頁から18頁で述べた合格基準決定過程に「合否判定手続きの瑕疵」,「他事考慮(目的違反,動機違反)の存在」が推認され,被告が下した平成27年度の合格基準は,(1)要件裁量的側面,(2)効果裁量的側面からも「行政庁の裁量権の逸脱・濫用行為にあたる」と考える。

(1)要件裁量的側面

社労士法第9条の要請に応え合格水準を維持するという効果を得るためには,必要に応じ合格基準の調整を行わなければならず,どのような場合に調整を行うかは被告の裁量に委ねられている。平成27年度において,同法第9条の要請に反し,合格水準の維持がなされていないのは,本来合格基準を調整すべき科目が存在する場面において,不合理で独断的な裁量権の行使より,その調整を怠ったことが背景にある。被告に,要件裁量があるとしても,その結果,法の要請に反するような効果が生じる裁量権の行使は裁量判断の方法及び過程に過誤があり,違法な処分である。

(2)効果裁量的側面

合格基準の調整は受験生の得点状況を要件として,効果裁量としての側面を併せもつ。受験生の得点状況がある一定の要件を満たした場合,被告は合格基準の調整を行うかの決定に関する裁量権を有する。平成27年度の選択式「労働者災害補償保険法」の得点状況は「平成18年度・平成20年度・平成22年度・平成23年度・平成25年度」における合格基準点を3点から2点に補正する要件を満たしているにも関わらず,被告は合格基準の調整を行わなかった。社労士試験の合否は,「職業選択の自由」にかかわりを有するものであり,各年度,多数の者から少数の者を選択して,合否を判定する厚労大臣としては,合格基準の設定において,厚労大臣の独断が客観的にもっともと認められるような手続きをとってはならないと解される。被告は「合格基準を一定に保つために試験問題の難易度に応じた合格基準の調整を行う」と主張しているが,試験問題の難易度は,各受験生の各科目及び総合的な得点状況で客観的に決定されている。得点状況で客観的に試験問題の難易度が決定されている以上,合格基準の調整を行うか否かの効果裁量は,高い覊束性を伴うと言える。客観性の高い要件に基づいて行う効果裁量は,客観的な合理的根拠を伴わない限り,恣意的で不合理,又は独断性が高く,これに反する取扱いは不平等であると言える。

平成27年度の合格基準の決定内容は,訴状の第8の「憲法第14条並びに第22条第1項」の視点から,問われるべきである。

 

第2,合否処分の原因となる事実,処分理由を明らかにする資料は必要である

「合格基準の考え方(乙第5号証6・7頁)」自体に変更がないとする被告の主張から,特定の年度のみに適用される補正基準は存在せず,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果が,同一又は類似した条件である場合,当然に同様の補正基準を適用しなければ,試験水準の維持が行われなかったことと等しく,客観性,及び整合性に著しく欠如し,厚労大臣の裁量権の独断的な行使が認められる(基幹となる考え方に変更がないにも関わらず,類似した条件下で,特別な理由もなく,ある時は適用し,またある時は適用しないという行政庁の処分は,あまりにも独断・恣意的である)。

社労士試験の合否は,受験者の「職業選択の自由」に関わるものであり,受験年度間を通じ,多数の者から少数の者を選択して,合否を判定する行政庁としては合格基準の設定において,行政庁の独断が客観的にもっともと認められるような手続きをとってはならないと解される。「試験水準の維持」は抽象的な合格基準を定めているにすぎないから,内部的にせよ,さらにその趣旨を具体化した合格基準を設定し,これを公正かつ合理的に適用しなければならない。既に平成18年度から平成26年度の社労士試験において,具体的に公文書として公に開示された合格基準の設定が存在し,更に被告自身が一貫して試験水準の維持を主張する以上,これに矛盾するような合格基準の設定は,厚労大臣の独断が客観的にもっともと認められるような手続きであり,原告の公正かつ合理的な合否判定手続きを受ける法的利益を侵害している。厚労大臣が裁量権を行使するにあたり裁量基準「(試験水準を維持するという基準)及び(試験水準を維持するために適用された例年の合格基準の考え方)」を設定し,当該裁量基準が社労士法第9条の趣旨に合致していることは認めるが,過年度と整合性のない平成27年度の処分は,平等原則,比例原則,信義則に適合していない。故に,被告は合否処分の原因となる事実,処分理由を明らかにする資料を提出する必要がある。

 

第3,       「被告意見書」への反論

持ち回り決議の方法で決定されたとする合格基準案が起案用紙に1案しか添付されていないことから,決定案に絞り込まれた調整審議,判断過程を明確にして,合否処分の原因となる事実と処分理由の背景を明らかにする責務が被告にはある。

また,本件の「被告意見書」には,多くの疑義と矛盾が存在する。

以下 順に述べる。

1 事務局において廃棄したとされる「合格基準決定に至るまでの合格基準案」の重要性について

被告は,「被告意見書」で,「以上の合格基準決定に至るまでの合格基準案(事前協議や持ち回り決議の過程で各委員からの訂正意見が記載された案)については,各委員の訂正意見等を反映して修正した段階で必要がなくなるため,事務局において廃棄している。したがって,本件対象文書はいずれも存在しない。(3頁)」と述べるが,毎年4万人以上が受験する国家試験の合格基準にかかわる重要な判断過程の記録を廃棄することは常識的に考えてあり得ないことである。

何故ならば,厚生労働省行政文書管理規則(厚生労働省訓第20号)の第2条一で,「行政文書とは,厚生労働省の職員が職務上作成し,又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下同じ。)であって,厚生労働省の職員が組織的に用いるものとして,厚生労働省が保有しているものをいう。」と定義されており,同第9条において,「職員は,文書管理者の指示に従い,法第4条の規定に基づき,法第1条の目的の達成に資するため,厚生労働省における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに厚生労働省の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。」と規定されているが,被告が廃棄したとする文書は,「職務上作成」,「組織的に用いる」,「経緯を含めた意思決定に至る過程並びに事務の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう文書を作成しなければならない」との要件にすべて該当している。 

仮にそれらをすべて廃棄していたとするなら公文書管理法第4条及び厚生労働省行政文書管理規則第9条違反である。

2 合否判定委員会(持ち回り決議方法)についての疑義

合否判定委員会が「持ち回り決議の方法」によっておこなわれたものであるとする被告の主張は,社労士試験合否判定委員会要領の「4開催 委員会を開催する。」と規定されていることに違反している。仮に被告が「事前協議」が「開催」に該当すると強弁するとしても,その記録が一切残されていないことが至って不自然であることに変わりない。

また,「事前協議と持ち回り決議」についてであるが,「被告意見書」で記載された内容と,先に●●地裁に提出された「被告第1準備書面16頁10行目(甲24号証)」の記載内容とには明らかな相違がある。

これらは合否判定委員会が適正に行われていたか否かの判断において,重要な点であるにもかかわらず相違があるということは,被告の主張そのものの信憑性に疑いを持たざるを得ない。

以下 相違点(矛盾点)を指摘する。

(1)起案用紙(乙5号証1・2頁・17・18頁)の作成時期と事前協議のあり方について

「被告意見書(2頁下段)」には,「社労士試験の合格基準を決定するに当たっては,まず,委員会の事務局が,合格基準の原案を作成し,各委員と事前協議を行う。この協議において,各委員から上記原案に対して訂正や再検討の指示があった場合には,その都度,事務局において訂正や再検討を行っている。そして,各委員の意見が反映された合格基準案が策定された段階で,起案用紙に同合格基準案及び資料を添付し,各委員の持ち回り決裁を受け,合格基準を決定する。」と記載されている。

しかし,●●地裁「被告第1準備書面16頁10行目(甲24号証)」では,「なお,合否判定委員会は事務局と各委員が事前協議の上,決裁は持ち回り(下位者が原案を起案し,その原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,訂正や再検討の必要があればその旨指示し,下位者は,それに応じた修正を起案に加え再度上位者のもとに行き決裁を得ることを直近の上位者から順次最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返す方式の決裁方法)で行っている。」との記載となっている。

このように,「被告意見書」では,起案用紙は「各委員の意見が反映された合格基準案が策定された」段階で作成されていると主張しているが,●●地裁「被告第1準備書面16頁11行目(甲24号証)」では,「原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,」との文言から,原案の段階から起案用紙が作成されていたと解され,重要な点で両者の主張は食い違っている。被告は「所定の箇所に決裁印を押し」と明確に「決裁印」と記載しているのであるから,仮の起案用紙や仮の案に印を押しただけのものであるから廃棄したと言い逃れすることはできない。

また,事前協議についても,「被告意見書」では各委員が集まって事前協議を行っていたとの主張であると解されるが,●●地裁「被告第1準備書面16頁13行目(甲24号証)」では,「下位者は,それに応じた修正を起案に加え再度上位者のもとに行き決裁を得ることを直近の上位者から順次最終決定権者の決裁を得るまで繰り返す方式の決裁方法で行っている。」と個別に事前協議を行っていた旨の主張をしており,事前協議のあり方も大きく食い違っている。

(2) 起案用紙(乙5号証1・2頁・17・18頁)についての疑義

厚生労働省文書取扱規則 第25条には,「次の各号に掲げる文書に係る決裁文書について決裁を終えたときは,当該各号に定める課においてその旨を確認した上,施行簿に件名,文書番号,施行日,起案者その他必要な事項を記載するものとする。この場合において,当該決裁文書が第20条第2項の規定により起案したものであるときは,起案用紙又は当該決裁文書にその決裁を終えた年月日その他必要な事項を記入するとともに,発議印を押した上,文書番号を記入するものとする。」と記載されているが,被告より提出された起案用紙(乙第5号証1,17頁)には,文書番号・発議印が抜けている。これらは,合格基準決定の決裁には必要がないものであるのか,それとも書類の不備であるのか,書類の不備であるのなら合否判定手続き上の重大な瑕疵であると考えられる。

(3)7人の委員の意思決定にかかわる「検討資料」について

被告は,合格基準点について,『原告が言う「合格基準の調整・再設定」及び「追加補正」が,合格基準点の補正を意味すると解した上で,平成12年度以降の社労士試験において,試験の水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して合格基準点の補正を行ったことは認める。(被告第1準備書面7頁6行目)」,「試験の水準を一定に保つという観点から決定されるものであり,合格率を一定に保つといった観点や合格者数を絞り込むといった観点から合格基準点を決定するものでない。(被告第1準備書面17頁6行目)」』と述べている。

しかしながら,被告が主張する「事前協議及び持ち回り決議」において,7人の合否判定委員が「選択式科目」の基準点を補正する上で検討資料として用いることが出来たのは,「合格基準の考え方(乙第5号証6・7頁)」,「科目得点状況表(選択式)(乙第5号証8頁)」,「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」の3点だけであり,原案・修正案・確定案が作成される過程の中で,唯一データが更新されるのは「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」のみである。その資料に記載されているのは,仮決定された合格基準点を除けば「合格者数・合格率・免除者の割合,免除科目の取り扱い」しかないのである。

とするならば,最終決裁者の決裁を得るまで繰り返されたとされる判断過程の中で,考慮することができたのは「合格者・合格率・免除者の割合」しか考えられないのであり,被告自身が他の判断材料となる資料の存在を否定しているのであるから,「合格者数・合格率」を全く考慮していないとする被告の主張は明らかに失当している。

なお,平成27年度の労働者災害補償保険法と国民年金法の平均点・得点分布は,過去の追加補正理由「基準点未満の受験者の割合が3割以上(合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上)という要件には該当しないものの,基準点以上の受験者の占める割合が5割(51%を目安),平均点が低い,難化が著しい」のすべての要件に該当する科目であり,追加補正が行われなかった結果の合格率が2.58%と異常であったことを鑑みれば,被告は,考慮すべき事項を考慮しておらず,その結果,社会観念上著しく妥当性を欠く処分をしたものと評されるほかはなく,本件処分は,裁量権の範囲を超えて違法であると言わざるをえない。

 

第4,       それでも,厚労省で作成することが不可能な文面について

被告は,これまで準備書面・意見書で,原告指摘事項について,いろいろと弁明してきているが,いまだ弁明のしようがない「被告に作成できない文面」の疑義が残されている。

被告の●●地裁「第1準備書面19頁2行目(甲24号証)」の『「6 科目得点状況表について」で,「選択式,択一式ともに,合格基準の策定に当たっては,得点状況分布がどのようになっているか,総得点の平均がどうなっているかの基礎資料がひつようである。これらの資料が『「センタク トクテン ジョウキョウ ヒョウ」(甲25号証-1)と「タクイツ トクテン ジョウキョウ ヒョウ」(甲25号証-2)である。「連合会はこの資料をコンピュータで出力するだけで,科目別得点状況表の作成には一切関与していない。」』と述べている。

被告が主張するように,合否判定委員会で選択式科目基準点の検討に用いられた科目別得点状況表(選択式)を作成するための基礎資料が,「センタク トクテン ジョウキョウ ヒョウ(甲25号証-1)」だけであるとするなら,平成20年度の合格基準について(甲5号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は14.4%(引き下げ後18.7%,昨年21.1%)となり」,平成18年度(甲15号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は15.8%(昨年22.6%,引き下げ後18.9%)となり」と,選択式科目の補正を詳細に対比分析した結果を厚労省で作成・記載することは不可能である。

それでは,どこの誰がどの基礎資料を基に詳細な分析結果を作成したのか,厚労省でその文面を作成することが出来ない以上,これらの文面を作成できたのはデータを保管している連合会しかないことになり,連合会が合格決定の事務に関与しているとすれば,社労士法第10条の2違反である。

 

第5,過年度と平成27年度の「起案用紙(原案・修正案・確定案)」と「合格基準について(原案・修正案)」の提出申立

申立理由,過年度と平成27年度の「難易度の考え方」(調整審議,判断過程)の検証を行い,合格基準設定が適正(他事考慮・整合性)かつ合理的であったか否かを確認するため(甲22号証)。

1 原案・修正案・確定案の「起案用紙(乙5号証1・2頁、17・18頁)」の提出申立

被告に,「平成18年度・平成20年度・平成22年度・平成23年度・平成25年度」の持ち回り決議を行った際の「原案・修正案・確定案の起案用紙」の提出を再度申し立てる。

なお,被告が原案・修正案の起案用紙を廃棄した,もしくは作成していないと強弁したとしても,確定案(最終案)の起案用紙は必ず保管されていなければならない公文書である。

2 原案・修正案の「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」に相当する文書の提出申立

 被告が,『下位者が原案を起案し,その原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,訂正や再検討の必要があればその旨指示し,下位者は,それに応じた修正を起案に加え再度上位者のもとに行き決裁を得ることを直近の上位者から順次最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返す方式の決裁方法)で行っている。「●●地裁:被告第1準備書面16頁11行目」(甲24号証)』と述べていることや『第4 連合会の事務処理の概要「●●地裁:被告第1準備書面12,13頁」(甲24号証)』を事実とするならば,原案・修正案・確定案の作成手順は次のようになる。

事務局が「合格基準の考え方について(乙第5号証6・7頁)」に基づいて,「科目得点状況表(乙第5号証8頁・9頁)」から,原案の合格基準点(総得点・科目基準点)を決める。

事務局から原案の合格基準点の連絡を受けた連合会試験センターは,データベースにアクセスし,原案の「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」を作成するために必要な「基礎資料」か「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」そのものと「総得点乖離状況チエック表(乙第5号証10頁)」を出力して厚労省に送付する。
なお,被告は今までに開示された資料以外の資料は存在しないと述べている。

事務局は「持ち回り決議の方法」にて,起案用紙に原案『「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」,「科目得点状況表(乙第5号証8頁・9頁)」,「合格基準の考え方について(乙第5号証6・7頁)」,「総得点乖離状況チエック表(乙第5号証10頁)」』を添付し各委員に「別紙案のとおり決定してよろしいか」のお伺いを受ける。

添付された原案を基に各委員が合格基準点を検討し,訂正・再検討の指示を事務局に行う。事務局は修正された合格基準点を連合会試験センターに再度連絡する。

合格基準点の修正連絡を受けた連合会試験センターは,データベースにアクセスし,修正案の「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」を作成するために必要な「基礎資料」か「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」そのものと「総得点乖離状況(乙第5号証10頁)」を出力して厚労省に送付する。
なお,修正が選択式科目の追加補正だけであった場合,添付される資料の中で更新されるのは「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」しかないことは前述したとおりである。

この一連の作業を,最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返される。

この手順の検証から明らかになったことは,「追加補正」の調整が行われた年度(甲22号証)には,確定案(情報公開済み)以外に原案が必ず存在しているということである。

修正案については,平成23年度を例にとると,確定案(追加補正3科目)までに,修正案1(追加補正1科目),修正案2(追加補正2科目)などがあった可能性がある。

被告の主張するとおり,これらの原案・修正案が事務局によって廃棄されていたとしても,連合会試験センターのデータベースには,申し立てた文書を出力するためのプログラムとデータが共に保存されていることは明らかであるから,実質的には電子データとして文書が保存されていると判断すべきであり,民事訴訟法231条の準文書に該当するものと認められる。

なお,大阪高決昭和53年3月6日(高民31138頁・判時8839頁)では,「電子データを電磁的に記録した磁気テープは民事訴訟法312条の文書に準ずるものというべきであるとするとともに,磁気テープの提出を命じられた者は磁気テープを提出するのみでは足りず,その内容を紙面等にアウトプットするのに要するプログラムを作成してこれを併せて提出すべき義務を負うとした。」との旨判示している。

以上の事から,「追加補正」の調整が行われた年度(平成18年度・平成20年度・平成22年度・平成23年度・平成25年度)の原案及び最終決済を得るまで繰り返された修正案の「合格基準について(乙第5号証3頁~5頁)」相当の文書及び平成27年度の修正案1(労働者災害補償保険法の追加補正)と修正案2(労働者災害補償保険法と国民年金法の追加補正)の「合格基準について(乙第5号証3頁~5頁)」相当の文書提出を再度求める。

 

               証拠方法

 

甲24号証 ●●地裁に提出された「被告第1準備書面」(抜粋)   5部

      1頁:「事件番号,提出日等」

      12,13頁:「第4 連合会の事務処理の概要」

      16頁:「4 社労士試験合否判定委員会による合格基準の決定」

      19頁:「6 科目別得点状況表について」

甲25号証 ●●地裁に提出された「乙第12,13号証」      2部

 

附属書類

 

1 第2準備書面副本       1通

2 証拠説明書          2通

3 甲証の写し          2通

 

以上

 

④被告第2準備書面1
④被告第2準備書面2
④被告第2準備書面3
④被告第2準備書面4
④被告第2準備書面5

平成28年(行ウ)第24号 社会保険労務士試験不合格取消等請求事件

原告 ●● ●●

被告 国(処分行政庁 厚生労働大臣)

 

求釈明申立書

 

大阪地方裁判所 第7民事部合議4イ係 御中

 

平成28年9月16日

 

原告 ●● ●● 

 

本件は,選択式試験の合格基準点を3点(60%)以上に設定した理由において,「引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合」,追加補正の調整を行うか,行わないか,各年度,選択式試験の難易度を7人の合否判定委員が調整審議を行い,難易度に応じ,選択式科目の合格基準点を決定してきた。その調整審議の結果,開示資料で確認できる平成18年度以降,追加補正の調整を行わなかった4ケ年度(平成19,21,24,26年度)と追加補正の調整を行つた5ケ年度(平成18,20,22,23,25年度)が事実として存在する(甲22号証)。

合格率2.58%と選択式労働者災害補償保険法の追加補正調整の見送りの2点が極めて重要な争点である。平成27年度の合格基準は,平等原則の観点から,過去の合格率・合格者数(甲10号証)及び過去の追加補正基準(甲22号証)を比較して整合性を判断されるべきものである。

そして,合格者数の削減及び追加補正不適用に係る試験要項の変更は,社労士試験の運営・実施上,事前の告知・事後の説明が必要欠くべからず一連の重要な手続きである。

ところが,このような状況にあって,平成27年度においては,事前になんら告知もせず,また多くの受験者からの問い合わせに対し事後的に説明を行わず,一方的に例年の合格基準の調整を反故し,ひいては「合格水準を一定に保つ」という被告の主張に対し,自己矛盾するような処分を行っている。

平成27年度の合格発表後,1年が経過しようとしているにもかかわらず,合格審査基準を国民に公開していないマークシート方式の相対評価の社労士試験において,「資格を取得しよう」との思いで,受験者(国民)が受験申込を行う場合,過去の事実「一定の合格率」を指標に「その合格率内」入るべく日々研鑽し,受験に臨み,合格発表の日に「※上記合格基準は,試験の難易度に差が生じたことから,昨年度試験の合格基準を補正したものである。」の一言で,過去に類の無い2.58%の合格率を「適正かつ合理的な理由の説明なく」受け入れることは到底できない。 

被告らの平成27年度の合格基準についての主張は,被告第1準備書面15頁の「厚労大臣(委員会)は,合格基準を各受験者の成績に当てはめ,合格者を決定した。」の一言に尽きると言っても過言ではなく,争点をぼかしはぐらかすような主張が続いている。

そこで,この2点についての被告の主張を明確なものとさせ,もって争点を明らかにし,審理を促進する観点から次の点についての釈明を求める。

1,合格率2.58%に思い留まった内心を明らかにされたい。もし,政策的な意図があるとするなら,その理由を説明されたい。

2,選択式労働者災害補償保険法の追加補正の見送りは,過去の合格基準と明らかに矛盾するものである。したがって,追加補正を廃止して合格者数を絞り込んだ理由について釈明に答えられたい。

 

被告第1準備書面,被告第2準備書面,「被告意見書」の記載内容と同一あるいは類似の主張は,合格率2.58%と選択式労働者災害補償保険法の追加補正見送りの判断にあっては,何の回答たりえず,また,「合格基準の考え方について当てはめた」などというのも何ら釈明に答えたものにならないことは,予め指摘しておく。

平成27年度の合格基準決定について,事前の告知・事後の説明がなく,多くの受験生が不安に陥れられている一方,被告は都合の悪いことは説明責任を果たさず,受験生の適正な合否判定を受ける権利の侵害に対する必要たる具体的な根拠を何ら示していない。

合格率2.58%と選択式労働者災害補償保険法の追加補正見送りの必要性たる理由を,強く明白にされたい。万一,合格率2.58%と選択式労働者災害補償保険法の追加補正見送りが必要とするなら,その理由と証拠を直ちに提出されたい。

以上


⑤被告第3準備書面_0001_0001
⑤被告第3準備書面_0002_0001
⑤被告第3準備書面_0003_0001
⑤被告第3準備書面_0004_0001

平成28年(行ウ)第24号 社会保険労務士試験不合格取消等請求事件

原告 ●● ●●

被告 国(処分行政庁 厚生労働大臣)

 

原告第3準備書面

 

平成28年10月18日

 

大阪地方裁判所 第7民事部合議4イ係 御中

 

 原告 ●● ●●  

 

原告は,本準備書面において,平成28年6月7日付け被告第1準備書面及び平成28年7月5日付け文書提出申立てに対する意見書(以下「被告意見書」という。),平成28年9月13日付け被告第2準備書面に対し,下記の通り弁論を準備する。

 なお,略語等は,本準備書面で新たに定めるもののほかは,従前の例による。

 

目次

第1章     はじめに                        ---------------------------------------

第2章     法律上の争訟にあたること         ---------------------------------------

1,法律上の争訟性について          ---------------------------------------

第3章     合格基準決定過程における「手続き瑕疵」について-----------------------

1,持ち回り決議(起案用紙)の主張がなされた経緯------------------------------

2,起案用紙の疑義                        --------------------------------------

(1)  平成24年12月28日の行政文書リストに「起案用紙」は存在し

なかった              --------------------------------------

(2)  平成27年3月6日時点でもこの「起案用紙」は存在しなかった-------

(3)起案用紙に添付された資料の相違      --------------------------------------

(4)起案用紙の記載不備                  --------------------------------------

(5)過年度「起案用紙,原案・修正案」の提出拒否------------------------------

3,持ち回り決議の疑義                    --------------------------------------
(1)起案用紙の作成時期の相違            --------------------------------------
(2)事前協議のあり方と開催時期の相違    --------------------------------------

4,連合会及び第3者の関与について        -----------------------------------10

5,小括                                  -----------------------------------11

第4章  合格基準決定過程における「準則」について----------------------------11

1,合否判定における「準則」の構成要素     -----------------------------------11

(1)  被告の準備書面でも「本件準則2(追加補正原則)」を認めている--12

(2)平成23年度の「合格基準の考え方について」にも,それらの考え方を

「原則」と明確に記載している        -----------------------------------12

(3)事務局も「一体をなすもの」と説明していた-----------------------------13

(4)本件準則(1・2)に関する被告主張への反論--------------------------13

(5)被告は,補正についての原告主張を歪曲している-----------------------14

(6)本件準則(1と2)は,全面開示されている-----------------------------14

2,本件準則1(補正原則)と本件準則2(追加補正原則)について------15

(1)本件準則1(補正原則)の適用基準について-----------------------------15

(2)本件準則2(追加補正原則)の適用基準について-----------------------16

3,      小括                               -----------------------------------20

第5章 合格基準決定過程における「裁量権の逸脱・濫用」について-------20

1,合否判定会議による合否判定過程(手順)とは-----------------------------20

2,過年度の合否判定過程(手順)の検証    -----------------------------------21

(1)平成20年・平成22年度・平成23年度・平成25年度は修正案で決定された                              -----------------------------------21

(2)平成21年度,平成24年度,平成26年度は原案で決定された----22

3,平成27年度の労災(及び国年)が,本件準則2(追加補正原則)に該当するかのどうかの検証                  -----------------------------------22

(1)合格率要件の検証          -----------------------------------22

(2)得点分布要件の検証         -----------------------------------23

(3)平均点要件の検証          -----------------------------------23

(4)難化傾向要件の検証         -----------------------------------23

(5)不合格者数割合要件の検証      -----------------------------------24

(6)他年度との比較(同水準,同分布割合)要件の検証---------------------25

4,小括                                  -----------------------------------25

第6章 その余の原告主張                  -----------------------------------26

1,乙各号証について           -----------------------------------26

2,合否判定決定機関である委員会の方法と証拠---------------------------------27

3,「公文書管理法第4条」・「厚生労働省行政文書管理規則第9条」違反----28

4,受験要項による事前告知なく「難易度の考え方」を変更した--------------28

5,違憲の視点から             ----------------------------------29

(1)「憲法第14条の法の下の平等」の視点  -------------------------------29

(2)「憲法第22条第1項」の視点       ------------------------------30

第7章 結論(裁量権の逸脱・濫用及び手続き瑕疵)-----------------------------31

 

第1章 はじめに

本準備書面では,被告主張の疑義に焦点をあて,その矛盾点を明らかにしたうえで,原告主張を補充し,被告の合否判定に裁量権の逸脱・濫用及び手続き上の瑕疵があったことを明らかにする。

以下順次述べる。

 

第2章 法律上の争訟にあたること

1,    法律上の争訟性について

平成27年度の合格基準は,合否判定委員会に手続的瑕疵があるうえ,合格基準決定に関し,法の趣旨及び目的に反した事情を考慮し(他事考慮),又は,法の趣旨及び目的により考慮すべきことを考慮せず(考慮不尽)に合格・不合格が決定されたものであり,その結果,選択式科目の労災(及び国年)の点数補正が行われず,合格者数及び合格率が極端に減少ないし低下しており,実施機関に与えられた裁量権を逸脱・濫用するものである。

以上から,本件訴えは,「法律上の争訟」にあたり,裁判所が具体的に法令を適用し,これを解決することが可能なものというべきである。

 

第3章 合格基準決定過程における「手続き瑕疵」について

1,持ち回り決議(起案用紙)の主張がなされた経緯

先行していた〇〇地裁の裁判で,裁判官より「委員会の議事録はあるのか,判断過程を主張してもらわないといけない,判断過程を示す追加資料を出すように」と促され,その後,持ち回り決議の主張と起案用紙(乙第5号証1,2,17,18)が提出されたものであるが,「国民の皆様の声」の質問や「情報公開審査会」の諮問でも,「持ち回り決議」で行っていたとの釈明は一切なかった。この裁判になって突如主張されたものである。

2,起案用紙の疑義

(1)平成24年12月28日の行政文書リストに「起案用紙」はなかった

厚労省から送られてきた,平成24年12月28日付の「行政文書開示請求書の補正について(依頼)(甲29号証)」の合否判定委員会で使用された行政文書のリスト表に「起案用紙」はなかった。リストにあった文書についてはすべて開示(黒塗り含む)されている。

(2)平成27年3月6日時点でもこの「起案用紙」は存在しなかった

平成25年9月18日から平成27年3月6日まで行われた情報公開・個人情報保護審査会での諮問(平成25(行情)諮問第405号)にて,異議申立人の『委員会の合議では,各委員から様々な意見が述べられることは疑う余地がありません。また,委員会が合議による合格者判定を行う際には,各委員の具体的意見内容に加え,それらを統合して判定に至るまでの意思決定過程が必須であります。そして,その合議による判定に基づき委員会が最終決定を行うのであるから,その最終決定に当たり,各委員の具体的意見内容を記載した文書及び判定に至るまでの意思決定過程の具体的内容を記載した文書(あるいは両者を一体とした文書)の存在は常識的には不可欠であると言えます。よって,本件対象文書は,存在するべきものであると考えられます。ちなみに,厚労省のホームページでは,いろいろな審議会・研究会の「議事録」が作成・公開されています。なのに,国家試験の合否判定委員会の議事録(開催日時・出席者記載を含む)に関しては作成・保有していないとの理由はいたって不自然に思えます。(甲23号証,答申書,1頁)』との指摘に対して,審査会では『4)当審査会において,諮問庁に対し,第44回(平成24年度),第43回(平成23年度),第41回(平成21年度)及び第39回(平成19年度)の合否判定委員会に係る行政文書ファイル「社労士原議」の提示を求め,当該ファイルを点検したところ,本件対象文書2以外の本件請求文書に該当する文書は編てつされておらず,上記の諮問庁説明を覆すに足る特段の事情が認められない。したがって,本件請求文書の開示請求に対し,厚生労働省において,本件対象文書2の外に開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められないので,本件対象文書を特定したことは妥当である。(甲23号証,答申書,8頁)」と記載されているように,この時点で「厚生労働省にはその他の資料(起案用紙含む)は存在しない」と結論付けられていたのである。それにもかかわらず,裁判になってから突如厚生労働省より起案用紙が提出されたことは,至って不自然であり信憑性に疑いがある。

(3)起案用紙と添付された資料の相違

乙第8号証10頁「総得点乖離状況チエック表(H26(第46回)」の手書き訂正手続きからみて平成26年度の起案用紙を偽造した疑いがある。

 平成27年4月3日厚生労働省発基040321号の決定書によって開示された「総得点乖離状況チエック表(H26(第46回))」(甲27号証)と平成26年度の「各委員との事前協議に用いた資料」とする乙第8号証10頁の「総得点乖離状況チエック表(H26(第46回))」とは同一の資料でなければならないが二つの資料には相違がある。裁判になって提出された「乙第8号証10頁」は手書きで訂正されており,平成27年4月13日(乙第5号証2頁8,9行目)以降に訂正されていることは間違がない。

 このことから,「乙第8号証10頁」を用いたとする平成26年度の起案用紙は平成27年4月13日(乙第5号証2頁8,9行目)以降に作成された可能性が高く,信憑性に疑いがある。
 

(4)起案用紙の記載不備

起案用紙に発議印(施行年月日,文書番号等)が無いのは,明らかな「厚生労働省文書取扱規則」違反である。

被告は被告第2準備書面5頁11行目「しかしながら,そもそも文書番号

は,文書の内容についての決裁が終了した後に予定されているものであり(厚

生労働省文書取扱規則25条1項[乙第9号証7ページ]),」と主張し,当該

起案用紙は発議印(施行年月日,文書番号等)の必要な文書であることを認め

たうえで,証拠資料として提出された発議印(施行年月日,文書番号等)のない平成27年度の起案用紙(乙第5号証1,2,17,18)と平成26年度の起案用紙(乙第8号証1,2,18)は決裁を終えていないことになる。決裁を終えていない起案用紙は「厚生労働省文書取扱規則」違反である。また,発議印(施行年月日,文書番号等)・公印欄の年月日と公印のない起案用紙は作成された年月日を偽造することが可能であり,信憑性の面から疑いがある。

このように不備だらけの起案用紙であるにもかかわらず,「文書番号等の記載がないことは,決裁過程に何ら影響を及ぼすものではない(被告第2準備書面,5頁)」との被告主張は,「饅頭の皮は腐っているが,中身の餡子は腐っていない」と根拠もなく主張しているのと同じである。

(5)過年度「起案用紙,原案・修正案」の提出拒否

被告が被告第1準備書面の10頁「第3 社労士の業務及び社労士試験の概要等」に記載のとおり,当該試験は社労士たる能力を担保するため,乙各号証で提出された「官報・事務規定・受験案内・委員会要領・社労士試験について・社労士法・文書取扱規則」に厳格に規定されており,行政庁(国)は,「委員会要領」に規定したとおり「合否判定手続き」を実施したか,「適正な合格基準」であるか検証する責任があり,平成27年度の7人の合否判定委員は過年度との整合性のある「試験水準を一定に保つという観点から,当該年度の総得点,各科目の平均点及び得点分布等の結果を総合的に勘案して適正な合格基準」を決定する責任がある。

係る視点から以下の点は重要な争点である。

1,各年度の起案用紙は「処理に係る事案が軽微なものである場合を除き(厚生労働省行政文書管理規則第9条)」に適合する跡付けできるように作成しなければならない重要な資料であること。

2,『被告より提出された平成26,27年度の「起案用紙」』と『「平成18,20,21,22,23,25年度」に作成された「起案証紙」』を比較,検証できること。

3,「委員会要領」の「3 委員会の職務」を7人の合否判定委員が職務を果たしたのか検証できること。

以上の検証目的のため,追加補正の行われた過年度の「起案用紙及び原案・修正案」の文書提出命令申立(平成28年7月5日)を行ったが,決定案に絞り込まれた7人の合否判定委員との事前協議を行った重要な記録は「必要がないから,事務局の判断で廃棄」していると常識では考えられない主張をしている。また,過年度の起案用紙も平成27年度には関係ないと提出を拒んでいる。

再度の文書提出申立(平成28年9月8日)も「却下」とされたため,即日厚生労働大臣へ「行政文書開示請求」を行っており,10月中には,開示(不開示)決定通知が届く予定である。

かりに,この開示決定通知書で,過年度の起案用紙の不作成や更なる不備が明らかになれば,公文書管理法第4条,厚生労働省行政文書管理規則第9条違反であり,合否判定手続上の重大な瑕疵にあたることは言うまでもない。

3,持ち回り決議の疑義

(1)起案用紙の作成時期の相違

原告第2準備書面(6頁)で,述べたように,大阪地裁と●●地裁の「持ち回り決議」の説明には,看過することのできない重大な相違がある。これについては,合格基準決定過程が被告の主張通りに行われていたのか否かを判断する上で重要な点であり,これについて被告の釈明がないため再度記載する。

「被告意見書(2頁下段)」には,「社労士試験の合格基準を決定するに当たっては,まず,委員会の事務局が,合格基準の原案を作成し,各委員と事前協議を行う。この協議において,各委員から上記原案に対して訂正や再検討の指示があった場合には,その都度,事務局において訂正や再検討を行っている。そして,各委員の意見が反映された合格基準案が策定された段階で,起案用紙に同合格基準案及び資料を添付し,各委員の持ち回り決裁を受け,合格基準を決定する。」と記載されている。

しかし,●●地裁「被告第1準備書面16頁10行目(甲24号証)」では,「なお,合否判定委員会は事務局と各委員が事前協議の上,決裁は持ち回り(下位者が原案を起案し,その原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,訂正や再検討の必要があればその旨指示し,下位者は,それに応じた修正を起案に加え再度上位者のもとに行き決裁を得ることを直近の上位者から順次最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返す方式の決裁方法)で行っている。」との記載となっている。

このように,「被告意見書」では,起案用紙は「各委員の意見が反映された合格基準案が策定された」段階で作成されていると主張しているが,●●地裁「被告第1準備書面16頁11行目(甲24号証)」では,「原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,」との文言から,原案の段階から起案用紙が作成されていたと解され,重要な点で両者の主張は大きく食い違っており,被告の主張は信用できない。

なお,被告は「所定の箇所に決裁印を押し」と明確に「決裁印」と記載しているのであるから,仮の起案用紙や仮の案に仮の決裁印を押しただけのものであるから,それらはすべて廃棄したとの言い逃れをすることはできない。

また,それらの判断に用いられた資料(過年度含む)に決裁印を押した形跡が一切ないことも付け加えておく。
(2)事前協議のあり方と開催時期の相違

また,事前協議について,「被告意見書」では各委員が全員集まって事前協議を行っていたとの主張であると解されるが,●●地裁「被告第1準備書面16頁10行目(甲24号証)」では,「下位者が原案を起案し,その原案を持って上位者のもとに説明に行き,上位者は内容に同意する場合には所定の箇所に決裁印を押し,訂正や再検討の必要があればその旨指示し,下位者は,それに応じた修正を起案に加え再度上位者のもとに行き決裁を得ることを直近の上位者から順次最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返す方式の決裁方法」と詳細に記載しており,「直近の上位者から順次最終決裁権者の決裁を得るまで繰り返す」との文言からみて,事務局と各上位者(合否判定委員)とは個別に「事前協議」を行っていたとの主張であることは明らかである。

このように,合格基準決定の判断過程で行われた事前協議のあり方についても大きな相違があり,被告主張の信憑性に疑いがある。

4,連合会及び第3者の関与について

被告は,被告第2準備書面にて連合会が合格基準の決定に関与していなかったとの主張を縷々並べ立てるが,原告第2準備書面(9頁)でも指摘したように,「被告が主張するように,合否判定委員会で選択式科目基準点の検討に用いられた科目別得点状況表(選択式)を作成するための基礎資料が,「センタク トクテン ジョウキョウ ヒョウ(甲25号証-1)」だけであるとするなら,平成20年度の合格基準について(甲5号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は14.4%(引き下げ後18.7%,昨年21.1%)となり」,平成18年度(甲15号証-2)に記載されている「②今年の選択式試験は難化が著しく,引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は15.8%(昨年22.6%,引き下げ後18.9%)となり」との,追加補正に関する重要な判断過程(数値及びそれに基づいた)を合否判定委員会で行うことが不可能なことは証拠資料を鑑みれば明らかなことである。

 かりに,被告の主張どおり「連合会の関与がない」とするなら,合格基準の決定において,7名の合否判定委員と連合会以外の「第3者の関与」が示唆されるのである。この重要な疑義について,被告の釈明(誰が,どの資料を元に,いつ記載したのか)が一切無いということは,暗に「第3者の関与」認めていることになり,社会保険労務士試験の合否判定過程に重大な手続き瑕疵があったことは明らかであり,被告が「それを否定」するなら,証拠を指し示し釈明する責務がある。もし,被告がこれらの疑義については過年度の事であるから「釈明する必要がない」と主張するならその主張自体失当している。

被告は被告第1準備書面12頁18行目「厚労大臣は,平成12年以降,社労士試験の合格基準及び合格者を決定するため,厚生労働省の職員(大臣官房審議官等の特定の役職にある者7名)により構成される社会保険労務士試験合否判定委員会(以下「委員会」という。)を設置している(甲第3号証の1及び2)。」と述べているように,平成12年度以降の合格基準決定の際に,「第3者の関与」なく適正に行われていたのか否かを明らかにすることは,平成27年度の委員会が適正に行われていたのか否かを判断する上で重要な点であることは言うまでもないことである。

5,小括

 以上述べきたように,被告の合格基準決定過程の主張には多くの疑義があり,原告の度重なる指摘に対して,今もって釈明できないでいる。

これらの事実を「総合的に勘案」すれば,合格基準決定過程に重大な手続き瑕疵があることは明らかである。

 

第4章 合格基準決定過程における「準則」について

1,合否判定における「準則」の構成要素

年度ごとの補正は,「上記基準点については,各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから,試験水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。(甲4号証-1)」の考えのもと合否判定における「準則」が継続性と整合性を維持しながら形成されていた。(平成26年度までは)

合否判定委員会で使用される合否判定における「準則」とは,「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」に記載された内容(以下「本件準則1(補正原則)」という。)と「年度毎の社会保険労務士試験の合格基準について」に記載された内容(以下「本件準則2(追加補正原則)」という。)で構成されている。

(甲4,5,6,7,15号証)

なお,「合格基準について」には,「3,試験科目免除者の取り扱い」として,試験科目免除者の基準設定についての計算式及び配分点が詳細に規定されている。このことは「合格基準の考え方について」と「合格基準について」は一体をなして運用されていたものであり準則であったことの証左である。

そうでなければ,試験免除者の取り扱いも「合格基準の考え方について」に記載されていなければならないことは言うまでもないことである。

(1)被告の準備書面でも「本件準則2(追加補正原則)」を認めている

被告は,『原告がいう「合格基準の調整・再設定」及び「追加補正」が,合格基準点の補正を意味すると解した上で,平成12年度以降の社労士試験において,試験の水準を一定に保つため,各年度において,総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して合格基準点の補正を行っていたことは認める。(被告第1準備書面7頁)』と述べているように,各年度の科目補正に関して,本件準則1(補正原則)に記載された得点分布の評価だけでなく,本件準則2(追加補正原則)に記載されている「平均点」及び「等=その他にもまだあることを表す」を判断過程の評価項目として合否の判定を行っていたことを明確に認めている。

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(2)平成23年度の「合格基準の考え方について」にも,それらの考え方を「原則」と明確に記載している

本件準則2(追加補正原則)による判断結果の記載箇所は,平成23年度では本件準則1(甲4号証-2)の2頁目に「上記①の補正を行ったうえで,選択式及び択一試験のそれぞれについて,・・・,試験の水準維持を考慮し,当該複数科目について原則として合格基準点の引き下げを行う。」と,この追加補正を「原則」であると明確に記載している。
(3)事務局も「一体をなすもの」と説明していた

平成24年12月に黒塗りで開示された第41回(平成21年)・第43回(平成23年)・第44回(平成24年)の「合格基準の考え方について」と「合格基準について」の記載形式が年度で違っていたため,厚労省社会保険労務士係へ問い合わせたところ,「平成23年から記載形式が変更になり書く場所が変わっただけで,二つ合わせて内容としては同じものです」とこれらが一体をなして一つのものであるとの説明がなされている。

(4)本件準則(1・2)に関する被告主張への反論

被告は,平成27年度の合格基準決定は,「合格基準の考え方について(本件準則1)」に基づき適正に行っている,平成26年度も同じ基準を使用していると,いかにも平成12年からこの「合格基準の考え方について(本件準則1)」のみに基づいて行われていたかの印象を与えようとしているが事実は全く違っている。

平成26年度までは,本件準則(1と2)に基づき適正に行われているのであり,平成26年度は本件準則2(追加補正原則)の適用条件を満たしていないため本件準則1(補正原則)の適用だけで合格基準が決定されていたのである。

しかし,平成27年度は本件準則2(追加補正原則)の適用条件を満たしているにもかかわらず適用しなかたのであり,平成26年度と平成27年度は同じ基準の適用であり適正に行われたとの被告主張は失当している。

また,平成23年度の追加補正の記載については,「平成23年度の社労士試験においてのみ用いられた補正基準であり,平成24年度以降は用いられていない。(被告第1準備書面7頁)」と述べるが,これも事実は違っている。平成24年度は本件準則2(追加補正原則)の適用条件を満たしていないため本件準則1(補正原則)の適用のみで合格基準が決定されていたのであり,平成25年度は本件準則2(追加補正原則)の適用で追加補正が行われている。

これらについての詳細は後述する。

(5)被告は,補正についての原告主張を歪曲している

被告は,「ある年度においてどのような補正を行うかは,試験水準を一定に保つという観点から,当該年度の総得点,各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して決せられるものであり,ある年度に設定された補正基準が別の年度においても当然に妥当するものでない(被告第1準備書面18頁)」と原告の主張を歪曲して反論している。

原告は,「ある年度に設定された補正基準」を平成27年度の労災(及び国年)に何の根拠もなく,当然に適用すべきであると主張しているのでなく,平成12年度から行われていた本件準則(1と2)に基づく総合的に勘案した「難易度の補正」が,平成27年度の労災(及び国年)に適用されていなかったことやその事についての告知や理由説明が一切なかったことを問題にしているのである。

また,被告は「単に合否判断の基準を自己に都合のよいように変更させることを求めて合格基準を問題としている」との発言を他所でしているが,これは原告主張を著しく棄損し,歪曲するものである。

このような発言をするのであれば,原告が指摘している数々の疑義について,「答えるべき法令上の義務がない」などと「無視」を決め込むのではなく,国民感情に配慮し,正々堂々と回答すべきである。国民の目からみれば,被告は,「イチジクの葉っぱで恥部を隠そうとしている」としか映らないのである。

これらについての詳細(整合性・継続性・他事考慮・考慮不尽)は後述する。

(6)本件準則(1と2)は,全面開示されている

被告は『法9条は,社労士試験の目的について「社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力を有するかどうかを判定する」と規定するのみで,具体的な合格判定基準を規定していないから,合格基準の決定は,厚労大臣の専門的かつ技術的な裁量に委ねられているものと解される。(被告第1準備書面,12頁)』と述べるが,この主張を司法試験に例えると,試験結果の発表で短答式各科目の最低ラインが突然40%から60%点以上と変更されても,法に定めがないから問題がない,告知も事後説明もする義務がないとなってしまう。

かりに,被告が『司法試験では, 司法試験考査委員会議申合せ事項の「司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」にて,「短答式試験における最低ラインは,各科目における満点の40%とする。」』と事前に具体的に規定し公表されているが,社労士試験は「年度ごとの難易度によって補正」と曖昧な表現しかしていないら事情が違うと反論するとするなら,社労士試験の本件準則(1と2)である「合格基準の考え方について」及び「合格基準について」は,すでに厚生労働大臣の名のもとに全面開示されているのであるから,受験生に合否判定における成績評価方法・設定基準を公表したものとして同一に扱うべきものであると反論しておく。


 

2,本件準則1(補正原則)と本件準則2(追加補正原則)について

(1)本件準則1(補正原則)の適用基準について

科目補正(補正原則)の適用基準は,「合格基準の考え方について(甲4号証等)」に記載されている。
【科目最低点の補正】

各科目の合格基準点(選択式3点,択一式4点)以上受験者の占める割合が5割に満たない場合は,合格基準点を引き下げ補正する。

ただし,次の場合は,試験水準維持を考慮し,原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合

ⅱ)引き下げ補正した合格基準点が,選択式0点,択一式で2点以下となる場合

なお,上記i)は平成25年度までは「引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が3割に満たない場合」との記載になっており,同じ基準である。(甲4,14,16,18号証)

(2)本件準則2(追加補正原則)の適用基準について

 科目補正(追加補正)の適用基準は,年度ごとの「合格基準について」に記載されており,「①合格率②得点分布③平均点④難化の傾向⑤不合格者の割合⑥他年度比較(同水準,同分布割合)」の要件で構成されている。

以下,要件ごとに分け各年度に記載されている箇所を抜粋する。

①合格率の要件

合格率が追加補正基準の要件であることを次に示す。

被告は,「合格率を一定に保つといった観点から合格基準点を決定するものではない。(被告第1準備書面17頁8行目)」,「合格率を7ないし9パーセントに保つために合格基準点を補正してきたとの点は否認する(同11行目)」と主張するが,「科目の最低点引下げを2科目以上行ったことにより,例年の合格率と比べて合格率が高くなるとき(おおむね10パーセントを目安)は試験の水準維持を考慮して,合格基準点を1点足しあげる旨の補正基準を設けている(被告第2準備書面3頁22行目)」と述べているように,「試験水準の維持」のために,社労士試験の合格率は10%以上にならないようにと合格率の上限を指標(10%)として,本件準則1(補正原則)で明確に定めているのである。

また,合格率の下限指標については,「合格率はともに7.6%となり,例年ベースを維持していること(甲17)」と「過去10年10%を超えたことがない(最高9.8%(H5)~最低6.8%(H6)(甲26号証-2)」の本件準則2での記載や過年度の合格率(甲10,11号証)の推移を鑑みれば,7%が下限の指標であったことは明らかであり,「合格率を一定に保つといった観点から合格基準点を決定するものではない。」との被告主張は自己矛盾を証明するものである。

さらに,被告が合格率と合格者数を考慮していて合格基準を決定していた動かぬ証拠としては,原告第2準備書面8頁「(3)7人の委員の意思決定にかかわる「検討資料」について」で既に述べているが,これも重要な論点であるためもう一度記載する。

被告が主張する「事前協議及び持ち回り決議」において,7人の合否判定委員が「選択式科目」の基準点を補正する上で検討資料として用いることが出来たのは,「合格基準の考え方(乙第5号証6・7頁)」,「科目得点状況表(選択式)(乙第5号証8頁)」,「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」の3点だけであり,原案・修正案・確定案が作成される過程の中で,唯一データが更新されるのは「合格基準について(乙第5号証3~5頁)」のみである。その資料に記載されているのは,仮決定された合格基準点を除けば「合格者数・合格率・免除者の割合,免除科目の取り扱い」しかないのである。とするならば,最終決裁者の決裁を得るまで繰り返されたとされる判断過程の中で,考慮することができたのは「合格者・合格率・免除者の割合」しか考えられないのであり,被告自身が他の判断材料となる資料の存在を否定しているのであるから,「合格者数・合格率」を全く考慮していないとする被告の主張はここでも明らかに不自然であり信用できないことは言うまでもないことである。

以上述べてきたように,被告の「合格率を一定に保つといった観点から合格基準点を決定するものではない。」との主張は明らかに客観的事実と符合していない。これらの事実を「総合的に勘案」すれば,被告は合格基準決定において,合格率を考慮して決定しており,過年度の合格率は偶然の結果などでないことは明らかである。

被告は本件準則1(補正原則)適用で,例年の合格率レベル(7%)に満たない場合は,本件準則2(追加補正原則)を適用して,合格率の維持を図っていたことは間違いのない事実である。これについては後ページにて再度検証する。

参考資料(原案・修正案検証表:甲28号証)

②得点分布の要件

得点分布についての追加補正基準は次に記載されている。

・第38回(平成18年)合格基準について(甲15号証-2)

「引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割以上という要件には該当しないものの」

第40回(平成20年)合格基準について(甲5号証-2)

「引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割という要件には該当しないものの」

・第42回(平成22年)合格基準について(甲6号証-2)

「引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割という要件には該当しないものの」

第45回(平成25年)合格基準について(甲7号証)

「引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割以上という要件に該当しないものの」

③平均点の要件

平均点についての追加補正基準は下記に記載されている。

・第38回(平成18年)合格基準について(甲15号証-2)

平均点が2.48点と低く」

第40回(平成20年)合格基準について(甲5号証-2)

「平均点が1.6点と低く,平成16年の平均点(1.5点)と比べても同水準であること」

・第42回(平成22年)合格基準について(甲6号証-2)

「全科目を通じ過去最低の平均点となる1.3点(それ以前はともに「健康保険法」のH16年度1.5点,H20年度1.6点であり,1点に補正)であること」

第45回(平成25年)合格基準について(甲7号証)

「平均点が1.3点と低く,第42回(平成22年)の「国民年金法」の合格基準を1点へ下げた時の平均点(1.3点)と同水準,同分布割合であること」

④難化傾向の要件

難化傾向についての追加補正基準は下記に記載されている。

・第38回(平成18年)合格基準について(甲15号証-2)

「今年の選択式は難化が著しく」

・第40回(平成20年)合格基準について(甲5号証-2)

「今年の選択式は難化が著しく」

・第42回(平成22年)合格基準について(甲6号証-2,3)

「社会保険系の科目が全般的に難化しており」「前年比でも難化している」

⑤不合格者割合の要件

不合格者割合についての追加補正基準は下記に記載されている。

・第38回(平成18年)合格基準について(甲15号証-2)

引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は15.8%(昨年22.6%,引き下げ後18.9%)となり,本来,基礎的知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。」

・第40回(平成20年)合格基準について(甲5号証-2)

「引き下げを行わなかった場合,選択式合格者は14.4%(引き下げ後18.7%,昨年21.1%)となり,本来,基礎的な知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること」

・第43回(平成23年)合格基準の考え方(甲4号証-2)

「総得点では合格基準以上でありながら,いずれかの科目について合格基準点(上記①に補正したものを含む。)に達しないことにより不合格となる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)には,試験の水準維持を考慮し,当該複数科目について原則として合格基準点の引き下げを行う。

⑥他年度比較(同水準,同分布割合)の要件

他年度比較についての追加補正基準は下記に記載されている。

第40回(平成20年)合格基準について(甲5号証-2)

「基準点を1点へ引き下げた平成16年の平均点と比べても同水準であること」

・第42回(平成22年)合格基準について(甲6号証-2)

「全科目を通じ過去最低の平均点となる」

・第45回(平成25年)合格基準について(甲7号証)

「第42回(平成22年)の「国民年金法」の合格基準点を1点へ引きさげた時の平均点(1.3点)と同水準,同分布割合であることから,引下げを実施することとする。」

3,小括

以上述べてきたように,社労士試験では,本件準則1(補正原則)と本件準則2(追加補正原則)が規定されており,合否判定委員会では,それを基にその年度の合格基準を決定していたのである。

かりに,被告が,「そのような事実はない」と否定し,平成27年度のように「本件準則1(補正原則)」のみで合格基準を決めていたと主張するなら,平成12年度以降の合格基準決定の際に「一貫して考慮してきた要件(本件準則2)」をすべて否定することになり,合格基準の決定要件そのものに過去との整合性や継続性もなく,試験の水準維持を考慮したものでもなく,行き当たりばったりで合格基準を決めていたと主張しているようなものである。もちろん,試験免除者の基準設定をも否定することになる。

なお,被告は,年度毎の選択科目基準点(最低点)の決定において,「政策的,技術的見地」などの要件は一切考慮しておらず,各科目の「得点分布状況」のみで科目基準点を決定していることは被告が度々主張していることでもある。

とするなら,今回,労災の選択科目補正で問題とすべきことは,政策的,技術的な見地などではなく,「科目別得点状況表(選択式)(甲8号証-1)」の評価が適正かつ合理的であったかどうかであることは言うまでもないことである。

これについては後頁で詳細に述べる。

 

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第5章 合格基準決定過程における「裁量権の逸脱・濫用」について

1,合否判定会議による合否判定過程(手順)とは

被告の合否判定委員会の合否判定過程の説明(大阪・●●)を「真」とするならば,合否判定委員会は次のような手順で行われていたことになる。

①まず,事務局が原案として,本件準則1(補正原則)を基に仮の合格基準を作成する。

②次に,連合会に仮の合格基準に基づく合格者数及び合格率等の算出を依頼し,その結果を当該合格基準案(原案)に記載する。

③次に,持ち回り決議において,この当該合格基準案(原案)で確定するのか,どうかを本件準則2(追加補正原則)に